327人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆきはなの遺骨を預けた寺の
住職に要望して
ゆきはなの待ち人・芳介が来る日、
俺と直嗣は本堂の隣室にいた。
廓の主の息子や馴染み客なんぞに
会いたいわけもなかろうし、
ゆきはなも望まいだろうから
判らぬように、障子を隔てて
じっと潜んでいた。
「彼女の許嫁、尾上芳介です」
本堂に響いた澄んだ声、
丁寧なる挨拶、乱れない姿勢。
彼女の選んだだけの人物だった。
ゆきはなの身の上に
涙を流していたのは
芳介に同行した彼の戦友の妻と母。
芳介はじっと住職の話を
聞いていたけれど
ゆきはなが遺した自分の、
芳介の似顔絵を前にして
背中が震えているのが
破れた障子の穴から見えて
恋敵ではあるけれど
胸がつかえて切なくなった。
最初のコメントを投稿しよう!