南天映燭(なんてんあかりにはえる)

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同じ職場の営業と経理、 貴方は同期一番の出世で 営業課長になるくらい社交家。 私は・・・    「君一人でも経理は回るよ」 そういう評価と  「いるかいないか、判らないね」 そんな存在の薄い人間。 業務のやり取り以外に 接点のない私たちは、 五年前のある日曜日、 郊外の植木市で出会せた。    「独りかい?」  「・・・はい、庭に少し   いいものはないかと   ご自宅用に何か?」  「いや、ウチはマンション、   通勤に大変だから都内の   小さな古い賃貸さ。でも   僕は草木が好きなんだ。   それでたまに一人で   見に来るんだよ」 既婚者でも人気のある貴方、  同じ三十歳でも、私の方が 上に見られるんじゃないかしらと 気になりながらも・・・ しばらく苗木や鉢植えを観て 楽しんだ一日。 帰りには家とは逆なのに 川越の自宅まで、買った寄せ植鉢を 運んでくれた。  「いい庭だね・・・   一人で住んでいるの?」  「両親はもう他界してるんで」  「そりゃ・・・・寂しいね」 貴方の語尾が優しくて・・・、 貴方の微笑みが優しくて・・・。
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