パウダールーム ①

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創業三百年の老舗和菓子屋の社長、 と、いえば聞こえはよいが 要は“金庫番”の美沙。  「お前は器量良しでは   ないけれど、商才は確か」 亡祖父のオボエめでたく 稼業は継いだが、結婚は しなかった四十八歳。 何れ商売は妹夫婦の息子・一哉に 継がせるつもりで教育。 容姿端麗な妹夫婦には似ない イケメンとは異なる 少しオタク系な子だが、 美沙に似たのか、祖父や父に 似たのであろうか、大学生ながら 商売にも興味を持ち、 美沙の片腕になりつつある。 妹は商才などない代わりに 母親似の美貌で、四十を過ぎて 尚更お洒落熱心。 (一哉が社長になれば  全財産を使うつもり) 顔面に明記したように 毎日優雅にやっている。 (呑気なもんだわ、夫の公務員  所得では賄いきれない部分を  どうにかしてやってるというのに) 都度都度、美沙は呆れては いるものの・・・口出しはしない。 男物の腕時計を鞄から出すと 三時十五分、 「早く着替えなくちゃ」 つい、独り言。 美沙は“女”を脱ぐために 着物も化粧も落とし始めた。
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