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着替えのシャツを羽織り、
ボタンを留める手が
湿った肌を撫でた。
「透き通るようだよ」
“初めての男”は
一緒に風呂に入るたびに
自分の浅黒い肌と並べて
美沙の肌を褒めた。
父親の後輩である“この男”は
製菓会社の社長で
頭脳明晰のやり手。でも
家庭人としては真面目で
有名な男だった。
「遊びが目立つようでは
粹ではないし、第一、
容姿や仕草で、女の善し悪しを
図るほど、真否の判らぬ
男ではないよ、僕は」
そう言った男は、
美醜を気にして、鋼鉄のような
装いと表情の美紗の
蕾を咲かせた相手。
彼の胸元に、自ずと漏れる吐息が
燃えた二十五歳の春だった。
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