メロン

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「“縁”の行き違い・・・  とでも言うのかしら・・・  ウィーンに留学されてた頃、  お知り合いになったそうよ。  でも、そのときには  御主人には家庭があって・・・。  財産も全て棄ててここへ  いらしたみたい」 「そうですか・・・」 “財産も家族も棄てる” 若い千帆にはまだ理解不能な恋。 「挨拶してきますね」 中庭を抜けて母屋へ入ると (やっぱり・・・) あの紳士が縁側の椅子にいて キッチンの方には雅子の気配。 「やあ、久しぶりだね」 「御無沙汰しております」 (この人の笑顔は変わらない、  むしろ若くなったかしら) そんなことを思いながら 千帆が雅子に手招きされて 中へ入った。 甘く熟したメロンの香りが 部屋中に優しく漂う・・・。 顔を見合わせて 千帆にメロンを進める二人。 この成熟された恋を 理解出来ない千帆ではあるが、 ここで、この香りの中で 二人を眺めることには 良い心地はするのだった。              ー 了 ー  
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