夕暮れにて

7/10
前へ
/485ページ
次へ
「何しにきたのよ?!」 娘の剣幕に開口出来ない敦也。 「どうしたんだ?」 オロオロする夫。 私は冷静に 「敦也さんが浮気を・・・  していたのですって。  晴香が里帰りしたあたりから」 言った。 「いや、ほんとに数回、  お母さん、お父さん!  “つい”、ついなんです!  気持ちがどうとかでなく」 夫はかつてしたことのある 敦也の言い訳に俯くしかない。 「“つい”ですって!  気持ちがないとかあるとか  そんな問題じゃないわ!」 晴香はクッションを敦也に 投げつけてまた泣き出した。 「ごめん、晴香・・・」 床に座って敦也は呟いた。 「あなた・・・どうなさる?  あなたは晴香の父親でしょう?  娘を傷つけられて  何かありませんか?」 「 ・  ・  ・ 」 だろう、かつての自分なのだから 夫には言葉などあるはずはない。 「“つい“って仰るけど・・・  その気軽さは二度三度と  過ちを重ねるわ、きっと」 私は敦也でなく 夫の横顔に言った。
/485ページ

最初のコメントを投稿しよう!

327人が本棚に入れています
本棚に追加