一言逢瀬

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一言逢瀬

『友達と吉野で遅い桜を観ました』 貴女の年賀状に一行、一行だけ。 待ちわびた年賀状。 吉野・・・貴女と幽玄を演じた吉野。 僕達は一度だけ お互いの家族を裏切った。 同じ会社で同じ建物を造ることに 夢中で働いていた僕達は気が合った。 だからといって不貞は許されない。 僕には妻と息子が一人、 貴女には夫と娘が一人、 ささやかな幸福をすでに築いていた。 だからどんなに貴女を想っても 悟られぬよう努力した。 けれども・・・ 20年前の奈良への出張、 山深い宿で二人に・・・ 愛するから身体を求め合う、 背徳を肯定するように 獣のように愛し合い 夜明けにきたのは充足と後悔・・・。 これからどうすればよいのか・・・ 貴女の決意は早かった。 東京へ戻ると仕事を辞める、 二度とは逢わないと。 それから僕達の繋がりは年賀状だけ。 深夜の書斎で一人、 貴女からの年賀状に掌を重ねる。 眼を閉じると浮かぶ白い乳房、 愛しい貴女が鮮やかに・・・。
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