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まさしくそのとおりと、左近は口を閉じるしかない。何をどう言ってみたところで、もう戦は止められない。それだけ二つに分かれてしまったのだ。
そして、数でこそ三成が圧倒しているものの、結束に問題があるままだ。正直、勝てるかどうか見通せない。あの大軍の中には日和見主義の者もいるのだ。裏切らない保証はない。
「ま、出来ることをやるだけですね」
「そうだ」
まだ晴れない霧を睨み付けて、三成はぎゅっと拳を握りしめていた。
その頃。その霧の東側では、徳川家康がじっと目を閉じていた。
食えぬ男だと思っている。残しておくには余りにも危険だと、そう感じている。だからこそ、この場で息の根を止めるしかないのだと、家康はそれだけを考える。
いけ好かなく嫌いな相手。若輩者のくせに礼儀を知らぬ若造。それでも、その頭脳は群を抜く。全体を考える事に長けていることを、家康は知っている。
しかし、この戦国の世において、それも秀吉が生きていた頃のような盤石な政権があれば別だが、個を重んじず、全体を重んじるなど愚の骨頂だ。だからこそ、三成から離反するものが相次いだ。認められていないと感じ、恨まれる。
「頑固で阿呆なのだ」
「否定は出来ませんな」
横に控えていた本田忠勝は、そのとおりと頷くのみ。この強者の武将は、無駄なことを言わない。
「柔軟に考えれば、こんな大事にはならなかったというのにな。折角の頭脳も、時局を読むことだけは出来んらしい。それに何だ。意外とあいつに付く者も多かった。非常に苦々しい」
「――秀吉様のおかげですな」
「そう。秀吉はあの男を非常に信用していた。まさに子飼いの家臣。だからこそ、中も外も知り尽くしている。だからこそ、まだあの男に賭ける奴が出てくる」
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