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実夏は帽子を放り投げた。
「チェックインできた時にバンザイでもしたい気分だったんだだけどさ、変な奴だと思われるからここまで我慢してきたんだー」
緊張から解放されたからか、実夏は早口だった。
「すっげー緊張した。もうこれ以上ないぐらい。小学生だってバレたらどうしようって思って名前書く手も震えそうだったのに、二人ともソファーでくつろいでるし! キレそうになった! 何なのあんたたち!」
僕と智也を交互に指差して言った。怒っているわけではないらしい。テンションがとんでもなく跳ね上がっているらしい。
「近くをうろうろしてたら怪しまれると思って、敢えて離れてたんだよ」
「そうそう」
僕と智也が何度も頷く。
「まー、いいけどさー、ちゃんと感謝してよね」
「いや、そこは実夏のおかげだと思ってるよ。野宿しないで済んだんだから」
「実夏様様だね」
智也が言うと「もっと褒めていいよ」と実夏は笑った。とてつもなく楽しそうだった。ネジが飛んでいる状態とはこういう状態のことを言うんだろうと思った。
荷物を部屋の奥側に置いて、実夏は壁際のベッドに腰掛けた。決して部屋は広くなく、細長いリビングスペースにベッドが三つ並んでいるので、ソファーなどはなかった。
僕は真ん中のベッドに倒れ込み、窓側のベッドに智也が座った。
「えーっと、このホテルさ、上の階に大浴場もあるんだって。部屋のユニットバスじゃ狭いから、そっちでお風呂入ろうよ」
「そうだね、なんかすごく疲れた」
智也も頷く。
「オレも。こんな疲れた感覚って初めてかも」
「そうと決まったら、お風呂行く準備! あ、カードキーは二枚あるから一枚は私、もう一枚は智也に渡すね」
「なんでオレじゃないんだよ」
僕が突っ込むと、実夏は僕を見下したような目をした。
「だって、陽に渡すとどこかで落としてきそうだし……」
「なんだそれ」
「二年の時だっけ? 遠足で行った遊園地でフリーパスを落としたことあったじゃん?」
「いつの話だよ!」
細かいことばっかり覚えている奴だなと僕は思った。遠足で遊園地に行ったことなんて僕は忘れてしまっていた。
結局、カードキーは智也が持つことになった。
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