1.終わりは、突然に

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 控え室で僕はただ黙っていた。誰かが入ってきて「同点になったよ!」なんて言ってくれるのではないかとぼんやりと考えていた。  それから何分かの時間が過ぎたのか。  静かに扉が開いた。そして次々とチームメイトが入ってきた。  誰も僕に視線を合わせようとしない。誰も結果を言わない。でも、何も言わないことで、僕は結果がわかってしまった。    ああ、負けたんだ。  二対三。  あと一点が届かなかった。さっきのゴールで同点になっていれば、流れはこっちのものになって勝ち越せたかもしれない。   「悪い、追いつけなかった。追いつけると思ったんだけどよ」  と潤が僕の前にやってきて言った。  潤は笑顔を浮かべているがそれが明らかに無理をしているのが伝わった。さっきまで苛立っていた気持ちは、もうどこかに消えてしまった。ただ僕は自分の居場所がどこなのか、座っているのか、立っているのかもよくわからなくなった。 「……ごめん」  そう搾り出すのが精一杯だった。 「陽だけが悪いわけないだろ。陽がいなかったらもっと酷い負け方だったかもしれないじゃん」  ゴールキーパーの雄太が言った。フォローされてしまうことが物凄く情けないことのように思えた。 「そうだよ――」  その後もみんなが僕が悪くないということを次々と言い始めた。  誰も僕を責めてこなかった。  それはもしかしたら、優しいチームメイトに恵まれて嬉しいことなのかもしれないけど、今の僕にとっては責められることのほうが何倍もマシに思えた。みんなに気を遣われていることが苦しかった。  いつのまにか隣に智也が座っていた。智也は俯いていた。何も話さなかった。  智也は今、何を思っているのだろう。今日一点取ったことなんて忘れてしまってるのだろう。あのオフサイドの時のことでも考えているんじゃないだろうか。  どんな顔をしているんだろうと思い、僕が智也のほうをチラッと見るとちょうど顔を上げた智也と目が合った。智也は少し戸惑った顔をしていたが、 「飛び出し、速すぎたね。ごめん……」  と俯きながら言った。  やっぱりオフサイドになったあの場面を考えていたらしい。僕のパスが悪かったとは考えたりはしていないんだろう。とことん自分を責めてるんだろう。一点目を取ったときみたいな強気なプレイが嘘みたいだ。 「オレがキレなきゃよかっただけだよ」 「でも……」  智也が何かを言おうとしたが、僕はそれを待つことなくタオルを頭から被った。いまは智也と話したくなかった。きっと謝るのだろうから。  誰が何を言おうと僕のせいなのだ。
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