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しばらくして、監督が控え室に入ってきた。
監督が何かを話し始めたが、僕はタオルを被ったままでいた。タオルのせいで監督が何かを話しているらしいのはわかるが、はっきりとは聞こえなかった。「六年生」という言葉が聞こえたような気がしたから、僕たち六年生に対しても何か言っているんだろう。これで最後の大会だからだろう。
ああ、そうか。
これが最後なんだ。
みんなで戦う最後の試合だったんだ。そんな試合で退場してしまうなんてかっこ悪すぎだ。本当に何をやってるんだろう。
早くこの場から解放されたい。
早くこの場から消えたい。
そんなことを考えてるときだった。
浩二の「え? なになに?」という甲高い声が聞こえた。僕はタオルを少しずらして、隣の智也に何があったのかを聞こうとした。しかし、僕は聞けなかった。
智也の顔がまるでPKでも蹴るときのように緊張した顔になっていた。なんで試合中でもないのにそんな顔をしているんだろう。
「長井、どうする? オマエから言うか?」
監督の声が聞こえた。
オマエから言うって何のことだろう。智也に聞こうとしたとき、智也がゆっくりと立ち上がった。
「僕から言います」
僕は被っていたタオルを取って、智也の顔を改めて見た。強い意志のある目だった。
「みんなに話があるんだ」
僕は何だか嫌な予感がした。
この予感は当たってほしくなかった。でも、当たってしまう、そんな感覚に襲われた。背中にくっついたユニフォームを剥がすこともできないほど、僕の身体は動かなかった。
きっと今から智也が話すことは楽しい話なんかじゃない。
今まで智也がみんなの前でこうやって話し出すときなんてなかった。試合中以外はいつもオドオドしている智也がこんな顔をしている。一体、何が始まるんだろう。
「急な話なんだけど」
そう切り出してから次の言葉を言い出すまでに少し間があった。みんな黙って智也の言葉を待った。
「ニ学期から転校することになったんだ」
その瞬間、時間が止まったような気がした。
僕だけではなく。その場にいたチームメイト全員が止まってしまった。
一瞬の時間停止の後、「ええー!」「はぁ?」「何言ってんの?」「なんだそれぇ?」とみんな口々に言い出した。場が収まらなくなった雰囲気を見かねた監督が
「静かに!」
と語気を強めて言った。みんなはいつもの習性で黙った。監督の言葉は絶大だ。学校のどの先生よりも迫力があった。
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