1.終わりは、突然に

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 沈黙を破ったのは監督だった。 「こうしたらよかったと気づくことが大切なんだ。まだオマエたちに遅すぎるということはないからな」  監督は僕らを見渡して頷いた。いつもの長い話が始まるのかなと思ったのは僕だけだろうか。  いつもなら智也をチラッと見てお互いに「まただよ」とニヤッと笑うとこなのだけど、今日はそんなことをする気にもなれなかった。 「人生っていうものはな、長く続けば続くほど『あの時、ああすればよかった』と思うことに出くわす。今日の岩瀬がそうだったように。オマエらみんなこれからそれにぶち当たる。全部勝ち続けられるやつなんていない。全部思い通りに行くやつなんていない。負けた時に、失敗したときにどう前を向いていくか、どう明日につなげていくかが大事なんだ。そうやってみんな強くなっていくんだ」  どう明日につなげていくかが大事。  長い話の中から、その部分だけ頭に残った。  本当にそうだとしたら、僕は、ここからどうやって明日につなげていけばいいのだろう。  何の答えも思い浮かばなかった。智也やみんなはもう答えを見つけているんだろうか。  僕がどれだけ反省したところで、もう智也と試合することはできないんだ。  僕にはどんな明日が来るのだろう。  誰か答えを教えてくれないんだろうか。  ミーティングが終わり、スタジアムの外に出ると智也のお母さんがいた。智也のお母さんは監督に挨拶をしていたみたいだった。僕らにも「今まで智也と仲良くしてくれてありがとう」と言っていた。  キャプテンの潤が「僕らも一緒にサッカーできて楽しかったです。智也はすっごく頼りになる奴でした。智也、転校先でもサッカー頑張れよ。またいつか試合しような」とみんなを代表して言った。何の打ち合わせもしていないはずなのに、こういう時にパッと言葉が出てくるあたりが潤らしいなと思った。  智也はお母さんと帰るということだったので、僕たちは智也を除いて横浜への電車に乗った。  東急東横線に乗り換えたとき、浩二が隣に座った。 「そういえばさ、陽も知らなかったの? 智也の転校のこと」  と浩二は言った。僕は何か言おうか少し考えたけれど、黙って頷いた。 「陽に喋らないんじゃ誰も知ってたわけないか……」  浩二が僕が知らなければ誰も知らないと思うほどに、僕と智也の付き合いは長い。  同じマンションに住んでいて、同じ小学校に通う同級生同士。僕らは物心がついた頃から一緒にいた。サッカークラブも同じ。ずっと一緒にやってきた。僕がパスを出したいところにいつも智也は来てくれた。  智也以上に息の合うメンバーは正直、このクラブにはいない。  これから先もずっと一緒にサッカーをやっていけると思っていた。  まさか、こんな風に、こんな突然、終わりがやってくるなんて、思いもしなかった。    二学期からも同じ学校に通い、中学も同じ学校に行くと思っていた。その未来が急になくなったと言われて、僕はどうすればいいのだろう。
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