61人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
僕らは公園のベンチに三人で座った。
実夏が真ん中に座る。これは小さな頃から変わらない。
「転校するんだって?」
実夏が単刀直入に聞いた。智也は頷く。「智也は親からいつ聞いたの?」
「六月のはじめ」
「六月のはじめって……じゃあ一ヶ月以上隠してたの?」
実夏の言葉に智也は少し怯んだようで「ごめん」とだけ返した。
実夏はハァーっと大きなため息をついた。「別に怒ってるわけじゃないけどさー、言ってほしかったなー……。でもまぁ、一ヶ月もみんなに黙ってるのってすっごいストレスだよね。智也もつらかったよね」
と実夏は一人でうんうんと頷いた。一人で話を進めて、一人で納得するのはいつものことだった。
一人で納得しているその姿を見て僕と智也は顔を見合わせて笑った。
「私なら言っちゃうと思うんだよね。一人でつらいことを抱えてるなんて無理だよ。智也はエライ」
「エライのかなぁ……」
智也はん褒められたことに違和感を感じているようだった。
「辛いことって分け合えるほうがいいと思うんだよね。でも智也はその辛さを抱えこんでずっと隠し込んでたんだよね。みんなに迷惑かけたくないからって。それでいていつもどおり振舞うって相当大変だったと思うんだ」
実夏の言葉を聞きながら、僕は智也がこの一ヶ月抱えてた重さを思い知った。
もちろん智也が本当に感じていた重さなんてわからないけれど、僕が一ヶ月転校のことを黙るとしたら相当辛いことだと思う。僕も実夏と同じく言っちゃうだろう。
「でもこれで楽になったとこもあるんじゃない?」
実夏が智也の顔を覗き込む。智也は少し顔を上げた。
「それは少しあるかもしれない……」
と言った。実夏は笑って
「だよね」
と言った。智也も少し笑った。
実夏のこういう笑顔の巻き込みは本当にすごいなと思う。自分が正しいと思った方向に引っ張っていくのは本当にすごい。実夏が男だったら絶対に一緒にサッカーやったんだろうなと思う。
「もうこれで苦しい思いをしなくてよくなったんだからよかったね」
「うん……でも」
「でも?」
「陽と実夏に会えなくなるのは寂しいな」
智也が俯きながら言った。
僕は何を言えばいいかわからなかった。実夏も何か智也に声をかけようとしているが、言葉が見つからないみたいだった。こんなときに「元気だせよ」と言ってみたところで空しくなりそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!