57人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
この時間の水族館が空いている理由は、すぐに分かった。流れる館内放送が、三十分後に今日最後のイルカショーが行われることを知らせてきたのだ。
俺達のすぐ近くにいた女性三人組も、その放送を聞きそちらへ向かっていった。
「ことりはいいのか? イルカショー」
「うん」
キッチリ順路通り。
彼女が向かったのは、ショーが行われるシアターではなく、様々な種のクラゲがいる展示コーナー。
区切られた空間内部は他よりも更に薄暗く、各水槽は色とりどりにライトアップされ、ゆらゆら水に漂う半透明のクラゲが幻想的な世界を造り上げている。
美術に疎い俺も、これにはさすがに目を瞠った。中々に見応えある展示だ。
「イルカも見たかったけどね……。でもいいの。この時間が一番空いてるってネットの口コミで見たんだ。ここはゆっくり先生と見たかったから」
「なんだ。それならゆっくり回るプランにすれば良かっただろうに。何も一日で全部の施設回らなくても、今日は水族館だけで……」
それなら、イルカショーもクラゲも見放題。遊園地やショッピングはまたの機会でも、何ら問題無い。
また来れば良いだけの話だ。
俺がそう言えば、ことりは表情を僅かに明るくさせた。
暗く落ち着いた中だったから表情もそれなりに見えていたのかと思っていたが、本当に彼女のそれは暗かったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!