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その時。
笑い声が聞こえ、数人の男女のグループが展示コーナーに入ってきた。
皆やはり感嘆の声を上げながら水槽を一つづつ見ていく。
移動していく数人。
俺達が眺める水槽は、横目でさらりと流し、去って行く。
ことりの足は相変わらず一つの水槽の前で止まったままだ。
展示コーナーは数分の後、また俺達だけになった。
言いかけた言葉を遮られた形になりタイミングを失ったのか、彼女は口を噤んでしまい、静かで不自然な間だけが続く。
だが、俺には何となく彼女の言いたい事が分かっていた。
「ことり。俺はお前を手放すつもり、ないからな」
頭を撫でて。肩を抱き寄せる。
「だから、変なことで悩むな」
言葉に驚いたのか、行動に驚いたのか、彼女は目を一瞬見開いたが、すぐに照れ臭そうに微笑む。「……うん」と小さく首を縦に動かした。
ことりは、あまり甘える様な素振りを見せない。
準備室で二人きりの時も、こうして外で会う時も、いつも周りの目を気にしている。恐らく、恥ずかしいからと言う理由じゃないだろう。
「誰かに見られたら」の《誰か》が、学校関係者であった場合の事を酷く恐れているのだ。
(きっと、色々我慢したり、考えたりしてるんだろうな……)
根が真面目なだけに。
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