56人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
(この良い具合に人が来ない空間というのも、ちょっと……)
いそいそと、区切られた小さな展示スペースを出ようとした、その時だ。
くっ、と身体に抵抗がかかる。その発生源であろう斜め下に視線を移せば、ことりが俺のジャケットの裾を握りしめていた。
「先生。……あの、」
潤んだように見えるのは、反射する光のせい。
自分を見上げる大きな瞳をそう理由づけてみたものの。
「さっきのお店の時みたいに……して……?」
「っな!?」
とんだ爆弾発言である。
しかも、せっかく人が自重しようと決心したところに、なんて凶器を送りつけて来るんだコイツは……!
いつもは絶対口にしないだろう言葉を言って吹っ切れていたのか、ことりの目がいつになく甘ったるい色をしていた。
……普段甘えることがない、ことりが、だ。
(何のフラグだ……これは)
だが、そう考えたのは唇を重ねた後で。
メープルやミルクの甘さはもうそこには存在しなかった。けれども、それ以上の甘ったるさが一秒毎に増していき。
人の気配と声が届かなかったら、ちょっと危険だったと思う。
最初のコメントを投稿しよう!