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強引に彼女の手を引っ張り、背後に親子連れの声を聞きながら展示コーナーを後にした。
数個の水槽は見ず足早に通り過ぎ、ちらほらと人がいる場所まで来たところで、ようやく彼女の手を離す。
突然引っ張り出されたことりは乱れた息で、表情にはまだ夢現さを残したままだ。
しかし、あの空間から急に連れ出された理由は本人も解っているらしく、数度まばたきを繰り返してからゆっくりと息を吐いた。
「びっくりした……」
こっちの台詞だ、それは。
「全く、誘うのもほどほどにしてくれ……心臓に悪い」
「は?」
「こっちのハナシ!」
彼女に対しての自分の意思の弱さがここまでとは知らなかった……。
責任転嫁の言葉を吐きながら、溜息をつく。
ことりは俺の溜息を誤解したのか、再びジャケットの裾をきゅっと掴むとこちらを不安げに見つめてきた。
(だから、その顔……。ったく、懲りねえなあ)
ことりも、俺も。
クスリと零れてしまう笑い。
ふわんと甘く残る二人の間の空気に、俺はもはや抗う気など無かったのかもしれない。
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