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ただ素直に、思いのままに言葉を繋げる。
「なぁ、知ってるよな。ライナス少年。安心毛布が手離せない」
「うん。先生が課題に出したマンガのキャラクターでしょ?」
「今のことり、なんかソレみたいに見える」
「えっ!」
「俺は毛布じゃないけど。ことりに執着されるなら歓迎するよ」
「ちがっ! これは……!」
慌てて手を離す姿に、柄にもなく胸は高鳴りを。
声は、笑いが堪えられなかったため弾んでしまっていた。
「そう言えば、読みたいって言ってたよな、漫画。貸してやる……部屋まで取りに来るなら」
「行くっ!」
「………」
「……あれ? 先生?」
「……即答って。お前なぁ……少しは察しろ、色々。そして戸惑え」
そんな嬉しそうな顔はしない方が良いと思うのだが?
しかし、甘えることを覚えた今日のことりに、警告など通用しないのだ。
安心毛布を求める一途な執着は、何よりも恐れ知らずな直球の誘惑だったりする訳で。
まんまとそれに嵌った俺は、教師期間満了まで絶対的に隠し続けなければならない、それまで以上の秘密を彼女と共有する事に。
糖度高めな、その日の記憶……――。
二人の関係は大きく変わった。
そして、火曜日。
甘い記憶を思い起こさせる、誘い文句のきっかけともなった補習課題を生徒が提出に来る度に、俺はひとり英語科準備室で、己の加減知らずさを恥じる事になる……。
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