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ペリエを口にする。
喉を過ぎる炭酸の泡。細かな刺激はすぐに消える。
と、受話器の向こうで『最後?』……ことりが呟き、俺の頭の中には、小首を傾げる姿が現れた。
「ん。文化祭が終わった後ぐらいで俺の役目は終わるからな。二学期の期末には当然いない。つまり、俺が補習担当するのも今回限りだ」
これで本職の方に完全に復帰できる。
夏休みを除けば、臨時職はあと二か月ほどで満期だ。
やれやれ……やっと学校という閉鎖的空間から解放か。
『…………』
「ことり?」
バサバサと電話の向こうで何かが落ちる音が聞こえてきた。
うわあ、と慌てた声が一瞬電話口で大きくなる。
そして、ガサガサというノイズ。どうやら落としたものを拾っているらしい。
「何してんだ?」
『本落としちゃったっ。明日行くトコのガイドブックー!』
「ガイドブッ……――。そーですか……」
日頃の勉強において予習復習に余念がない真面目っコは、遊びにも同様発揮される様だ。
(この分だと、明日は相当歩き回る事になりそうだな)
『先生、明日……楽しみにしてるね』
ことりの声は弾んでいた。
「ああ、そうだな。朝早いから、寝坊するなよ」
しないよと笑う彼女はもう一度『楽しみ』だと言う。
だが……何故だ。
思い浮かんだ顔は、困った様な表情だった――。
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