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8話 学園編一年目Ⅴ
伯爵家以上のやつらに追い回された結果、俺はとうとう捕まって色々と問い詰められていた。
──その中でも特に意外だったのが
「ロジーク君、それは本当?」
ついさっきまで黙っていたのに、虚ろな目でこちらへユラユラ近づいてくるポリメ。なんか浮気した夫に問い詰める雰囲気を醸し出しているが、周りも咎める気はないらしい。
「はあ~~~~。その噂は本当ですよ……というか何処からそんな噂が流れてきたんです?」
ライラ嬢が自分から言い降らすなんてことは彼女の性格上、あり得ないだろうし……。
「俺の知り合いというか、今の5年の先輩が言ってたんだけどよ……」
ブチルが少し勿体ぶって──
「ライラ先輩本人が周りに言い降らしてたらしいんだ!」
(──ぶっっ!!)
え?なんで?彼女の性格からして自分から言い降らすような真似はしないはずなのにな。何か理由でもあるのだろうか?
「それは恐らく何か理由があるはずです。ライラ嬢はそのような性格では無かったはずです」
「おお!ライラ先輩のことを良く知ってるんだなぁ~!」
ブチルがまたしてもからかう。
──真面目に言ったはずなのだが……。
捕まれていた手を少したけ力ずくで押しのけて、俺は取り敢えずライラ嬢のいる教室に向かった。
「すみません、ライラ先輩はいらっしゃいますか?」
何人かの男子の先輩が声の主に気が付くと一斉に睨み付けてきた。これまでの周りの態度から推測するに、ライラ嬢はとても“高い場所”にいるらしい。
「はぁ~い、ってロジーク君!?」
ライラ嬢が俺に気が付いて驚くが、俺はそんなことお構い無しに5年生の教室の中へと入っていく。
「ライラ先輩、少し聞きたいことがあるのですが」
「……まあ、内容は大体想像つくけど、取り敢えず少し場所を変えようよ……」
俺とライラ嬢は学園のカフェテリアへ移動した。
やはり周りにいた男子の先輩がついてきているのであまり場所を変えた意味もないように見えるが。
「実は……例の話が決まった後、“とある家”の長男が私に言い寄ってきてね……。そいつが中々の厄介な奴で……あまりやってほしくはないけど、ロジーク君の婿入りの話を言い降らすことをそいつはしているんだよ……。しかも、私が言い降らしてたっていうデマを含めて。そいつの親も私と同じ公爵家の人だからこういうことが起こるのは仕方ないんだけど……」
──俺は、厄介事に巻き込まれる嫌な予感がしていたにも関わらず、家名を聞いてしまった。
「それで……その人の家名は何てすか?」
「家名はデオキシドっていう名前で言い寄ってくるやつの名前は“ジン・リボ・デオキシド”っていう特に力を持っている公爵家の長男よ。……しかも相手は軍事に大きな影響力を持っているから余計に厄介だよ……」
──なるほど、つまりは軍事的な力を重視するということか。それなら圧倒的な力で捩じ伏せればいい訳だ。毒も通用しないこの身体で!
「ちょっと何か物騒なこと考えてない?顔に出てるよ……?」
おっと顔に出ていたか。次からは気をつけよう。
「圧倒的な力で捩じ伏せればいいのではないかと考えていました……」
「え、えっとそれってつまり……」
「戦争てす!」
「だっ、ダメでしょッ!もし決闘に勝ったら、公爵家の権威で伯爵家を握り潰されちゃうよ!?」
──まあそれも当然の疑問だ。
「だからこそ“圧倒的だ”と思わせればいいんですよ。それで十分に利用出来そうだと相手側は考えるはずですから。……まあ、軍事利用される気は毛頭ないですが」
俺は自分の考えをライラ嬢に伝える。
「なるほど……それは確かにいいかも。って、なんでロジーク君って10才なのにそんな考えが出来るんだよっ……!?」
──精神年齢が三十を越えてるからです……
自分でも馬鹿げていると思う考えをライラ嬢は結構真面目に考えてくれた。何か違う内容も聞こえた気がしたが。
──そして俺はジン先輩のいる5年生の男子寮へと向かった。
「すみません、ジン先輩はいらっしゃいますか?」
俺は5年生の学生寮に顔を出すと、寮長のおばちゃんに用件を伝えた。
「ん?ジンは今ここにはいないよ?ジンに何か用件かい?」
「はい、ジン先輩に伝えることがあったので」
実際は宣戦布告だが嘘は言ってない。
「それじゃあ、ここでジンを待っていな!」
──数時間後、ジン先輩は6年生の男子寮に顔を出した。
「なっ!お前は!!」
ジン先輩は、俺の姿が目に入り次第敵意を向けてきた。ひどいじゃないか、俺自身は何もしてないのに。
──ジン先輩は見た目より筋肉質なのか睨み付けるときに筋肉がプルプルしている。
「先に用件だけ……。ジン先輩、僕と先輩で決闘をしませんか?」
「てめぇっ……!俺とお前が対等だとでも思ってんのかッ!粋がるのもいい加減にしろッ!!」
俺の言葉が癪に触ったのか、ジン先輩は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「ああいいだろうッ!!決闘で叩き潰してやるよ!」
──日時は……そうだな、三日後あたりがいいだろう。
「では……、三日後の放課後にコロッセオで待っています。ただし、先輩の友人を観客として呼んでいただけますか?……こちらも自分の友人を呼びますので」
三日後に俺とジン先輩の決闘が決まったのだった。
──そして三日後までの間、俺はとある“策略”を用意しておいた。流石に猛毒等は使えないので、相手に害を与えないような物質を用いなければならず、クロロホルム(CHCl3適量)や特異臭のある物質等で嫌がらせのような攻撃で弱らせておいてから、元素魔法で空気中の分子の衝突する頻度を上げてやることで相手の身体を発熱させる──というのが一番、魔力消費が抑えられるのでこのような筋書きを選んだ。
因みに、決闘は学園の承認のもと物理的ダメージを魔力消費で肩替りさせる“決戦結界”という結界を張られる。そのためにコロッセオでは常に結界術士が常駐している。ただし、結界魔法は知覚魔法に属するため、結界術士は術士と呼ばれるが結界を張ることのできる知覚魔法士のことである。
それによって、勝敗条件は“魔力の枯渇”となっているのである。
──そして俺は今、コロッセオに立っている。
☆☆☆
「逃げずに来たようだなッ!」
ジン先輩は両刃の剣を携えてコロッセオで待ち構えていた。剣で戦うらしい。
それよりも逃げずにって……それも当然だろう。俺にとっては単なる邪魔者の排除なのだから。っと、そのまえに。
「ジン先輩、ちゃんと友人を呼んでいただけましたか?」
俺は約束していた事を再確認する。
──そして、俺が呼んだのはブチルと2組のクラスメイト15名だ。これは俺が絶対に負けなくなるための精神的な枷でもある。
「ああ、勿論だ。お前を叩き潰すところを見せるため取り巻きを連れて来たぞ」
──ほう、それは丁度良い。こっちが思う存分に叩いても俺の強さが分からない奴はいないはずだ。
「それは此方も好都合です」
そう言って俺はジン先輩と距離を空けて構える。
──学園所属の結界術士が決戦結界を張る。
「それではっ、両者……始め!!」
そして、審判員が開始の合図を出した。
「W=3、Lv=2【生成】」
俺は合図が出てすぐに元素魔法を発動し、特異臭のするアニリンや硫化水素(少量)を結界中に散布して相手の様子を窺う。
「ぐふっ……!!う、うぅっ……!」
──すると気持ち悪くなるような悪臭や鼻を刺すような刺激臭にジン先輩は鼻をつまんで、両手で持っていた剣を片手に持ちかえる。俺も悪臭に鼻が辛くなるが、前世で薬剤師だったので大学時代で既にそういった臭いには慣れている。抗体があるので毒性も無意味だ。
──そこで俺は決めの一手を入れる。
「W=2、Lv=2【発熱】」
ジン先輩の細胞を壊れない程度に振動させ、熱を発生させる。
──それによってジン先輩の魔力が一気に減少する。
ジン先輩の魔力が枯渇したところで勝敗のベルが鳴った。
「勝者!ロジーク・オルト・グラストーン!!」
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