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孤独
孤独
青年は就職活動を来年に控え、ネットで色々と情報収集に勤しんでいると、何やら面白そうな予備校を見つけた。
謂わゆる就活塾、の一種なのだろうか。とある超大手企業が母体となって開催しているようだ。
なんでも入塾者の中から一名、選ばれた者のその大企業への採用が内定するらしい。
しかも、ただの新入社員としてではなく、社長付きと言う破格のポジションまで約束される、とのことだ。
一方でそのやり方も生半可なものではなく、何名もの脱落者が現れるほど過酷らしい。
やってやろうじゃないか。
彼は自身の持つ才能に絶大なる自信を持っていた。
誰もが知る大学へ入学し、周りが羨望するような経験をいくつも重ねてきたのだ。
代償とも言うべきか、友と呼べる存在はいなかったのだが彼はそのことを気にも留めなかった。
羨望とは嫉妬と同義である。勝者はいつだって本質的には孤独なのだ。
これまでも彼は何の困難に陥る事もなく望むがままの結果を手に入れてきたのだ。
今回だって勝利は約束されたようなものだろう。
彼は豪胆とも傲慢とも評される自身の性格を武器にその苛烈な競争に身を置く事を決めたのだった。
彼と共に入塾した同期は皆、彼と同じように満ち溢れる顔立ちをしていた。
人々が羨むような経歴を引っさげ、皆同じように自身に降り注ぐ栄光がはっきりと見えている事だろう。
彼はその全てに勝ってみせると、改めて野心に火を灯した。
全てのカリキュラムが終了し、卒業する受講生に賛辞が贈られる。
全てを乗り越えた彼は噂の真相を理解した。入塾者から一人選ぶのではない。一人しか残らないのだ。
目的のためには誰も手段など選んではいられなかった。欺き合い蹴落とし合い、ありとあらゆる手段を用いて己が優位性を証明した。
権能術数主義のみが空間を支配していた。
苛烈な競争の中、彼は向かってくる同志だったものに牙を剥き続け、やがて最後の一人となったのだった。
運営元の企業の社長がやってきて彼に手を差し出した。
「おめでとう。君には約束通り特別な椅子を用意しよう。さて、参加してみてどうだったかね」
出された手を握り返し、野心に眼を輝かせ彼は力強く答えた。
「何事にも代え難い経験ができました。ここで培った力を手に、必ずや御社の発展に貢献してみせます」
「期待しているよ。是非とも、我が社のために力を奮ってくれ」
深々と一礼し、蠱毒の勝者はその場を去った。
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