帰省中

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帰省中

帰省中 今日、俺は久しぶりに故郷へ帰る。 大人になると同時に故郷を立った。もうどれくらいになるだろう。 故郷にいた頃はどうしようもないような悪ガキだったが、あの頃と比べると随分と成長した。 苦労も絶えなかったが、決して悪いことばかりでもなかった。住まいを転々とする中で、運命の相手とも出会うことができた。 妻は今妊娠している。もうすぐ出産だろう。 今回の帰省は単なる帰省ではない。妻とお腹にいる子の為だ。本格的に子育てに向き合う決心が着いたのだ。 何不自由ない幼少期を過ごさせてもらったので、自分の子を育てるならここしかないとずっと心に決めていた。 俺もとうとう父親かぁ。ちゃんと子育てできるかな。 柄にもなく感慨にふけってしまったな。もうすぐ目的地だ。 まだ見ぬ我が子たちのためにも、ここで力尽きる訳にはいかない。気を引き締め直さないと。 病院のベッドの上で苦悶の表情を浮かべる男性がいた。傍らでは妻が自宅から持ってきた日用品を手際よく収納している。あまりにも彼が頻繁に呻くものだから妻は一旦手を止め、呆れ顔で声を掛けた。 「ねぇ、だから言ったでしょう。ちゃんと検査を受けましょうって。あの時ちゃんとお医者さんに診てもらっていたらこんな目に合わなかったのよ。一回痛みが引いても安心してはいけませんってテレビで言ってたじゃない。成長すると体から出て、つがいを見つけて宿主に帰ってくる新種の寄生虫による症例が多発していますって」
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