不死鳥

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不死鳥

不死鳥 「オンリーワンのペットを買ってみませんか?いつまでも一緒に居られる家族の一員をご紹介します!」 休日にインターネットで調べ物をしていると、不意にこんな広告が目に入った。 男は作業の手を止め、少し考え込んでしまった。 あの子と別れたのはもう何年前になるのだろう? 昔に飼っていた子を亡くしてからもう随分とペットなんて飼っていない。妻との間に子はおらず、我が子同然に愛情を注いでいた。覚悟していたつもりではあったのだが、やはりと言うべきか、愛する家族との別れは彼の心に深い傷跡を残していった。それが必然であると頭では分かっているのだが、簡単に気持ちの整理をつけられるはずもなかった。 そのようなことがあって、彼はもう一度新たな家族を迎えることを考えてはいなかったのだ。 しかし、ふと異なる考えが彼の頭をよぎる。 ーあの愛情と感動に満ちた日々を再び過ごすことができるのなら。 もしあの悲しみを味わわずに済むのなら、もう一度家族を迎え入れてみようか。 「お電話ありがとうございます」 「すみません、ネットで特別なペットの広告を拝見しましてー」 「あぁ!不死鳥のご購入をご検討いただいているんですね!ありがとうございます」 「はい、それで、その、にわかには信じられないんですが、本当に不死鳥を飼うことができるんですか?」 「もちろんです。あの不死鳥です。生まれ変わる火の鳥です」 嘘のような話だが、あの伝説上の生き物をペットとして飼うことができるという。 「家に迎える前にいくつか質問してもよろしいですか。お恥ずかしながら以前激しいペットロスに見舞われまして。先に色々とお尋ねして安心したいのです」 「心中をお察しします。いくらそういうものだと言っても割り切れませんよね。」 電話口の女は温かな口調で同情を示してくれる。彼女なら信用できそうかな、と彼は期待する。 まず簡単に説明させていただきます、と言って彼女は不死鳥の生態を話し始めた。成鳥は大型の水鳥程度の大きさになること。肉食で餌は昆虫、小魚などが良いこと。飼育用に改良された種で、通常発火の心配はないということなど、彼女は事細かに紹介した。 彼が唯一残念に思ったのは、生まれ変わった後、飼い主のことを思い出すのにかなりの時間を要する、ということだった。 転生直後は記憶が混濁し、飼い主のことを識別できなくなってしまうそうだ。 それでも、と彼女は力説する。 「以前と変わらぬ愛情を注いでいれば、すぐに元のように懐いてくれますよ」 しばらく質問を繰り返し、不安も大方取り除かれてきたところで男は一番の疑問を口にする。 「ありがとうございます。おかげさまでいくらかイメージが固まってきました。で、肝心の生まれ変わりについて教えていただけますか」 「承知しました。不死鳥は転生のタイミングで一旦冷たく、動かなくなってしまいます。死んでしまうわけではありません。転生のための力を蓄えているのです」 「その時はどのようにして助けてあげれば良いのでしょうか」 「弊社にて専用の施設を用意しております。一緒にご購入いただくケージに入れて弊社までお送りください。3営業日以内に転生した雛をご返送いたします」 彼はすんでのところで購入を思いとどまった。
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