6人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
5月 9日火曜日 前哨戦
三重陽子
大変だったのは翌日だった。朝のホームルームで担任の小川由子先生から昼休みに職員室に来て欲しいと言われたのだ。行ってみるとB組の肇くんもやっぱり同様の呼出を受けていたようでB組担任の吉川弦先生の前に立って何やら話し込んでいた。
ちょっと肇くんのやりとりが剣呑だったのが気になった。後で彼に聞こうと頭にメモしてそのまま小川先生の席へと向かった。
「小川先生」
「あ、三重さん。わざわざ呼んでごめんね」
そして先生は私の方に少し身を乗り出すと小声で言った。
「今から聞く事はいやなら答えないでいいからね」
私も小さく頷いた。先生は普通の声に戻すと表情を出さないようにして聞かれた。
「三重さん、会長選の推薦人やるって聞いたけど本当?」
「はい。昨日の総務委員会で大村会長に報告しました」
「ちなみに誰が立候補するのか教えてはくれないよね?」
「はい。今、それを本人以外が言うのは選挙権への侵害になる恐れがあると思いますので答えられません」
「分かりました。当然の回答だし聞いた私が悪いのでごめんね」
そして私は少し屈むと小声で先生に聞いた。
「どなたか聞かれたんですか?」
「まあ、いろいろあってね。ごめんね」
小川先生は苦笑しながらそういうと私を解放してくれた。
廊下に出るとちょうど肇くんも出てきた所だったので一緒に2年生の教室がある北校舎へ戻った。職員室のある南校舎から2階の渡り廊下を並んで歩く。
「肇くん、結構熱いトークしてなかった?」
彼は怒っているようだったけど表情には出さないようにしていた。
「誰が立候補するのか教えろっていうから選挙権侵害で押し返してたよ。吉川先生、結局反論できずに諦めて帰れって言われた。陽子ちゃんは?」
私はお手上げの仕草をした。小川先生に指示した人がね、もう。
「似たようなものだけど、誰かに聞かされた感じね。答えたくないって言ったら小川先生、あっさり解放してくれた」
肇くんは天井の方を見ると「あーあ」と言った。そして両腕を後ろに組んだ。
「E組の小川ちゃんはいいよなあ。A組の岡本先生は去年の文化祭あたりからいろいろ話を聞いてくれるようになったから良かったけど、うちのはダメだな。生活指導意識が強すぎる。今日の差し金は多分、生活指導の宮本先生か教頭先生あたりじゃないか?」
私は肇くんの足元を見つめていた。
「私もそんなところかなって思ってた。冬ちゃんとの打ち合わせは場所考えないとダメかな」
「そこまでか……確かにな。した方がいいね。メッセで場所決めてそこでやるしかないかな」
渡り廊下の突き当たりにある北校舎の2階に2年生の教室はあった。私は西側の一番端、彼は渡り廊下より東側に教室があったので渡り廊下が終わった所でお互いに手を振って左右に別れた。こういう呼び出しはそんなないとは思うけど、私たちの動きが学校側を刺激している事については確信を持った。
最初のコメントを投稿しよう!