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4月10日火曜日 総務委員会
日向肇
数日後の放課後、今年度第1回総務委員会が開催された。今の執行部は前の執行部の失態を知っているのでちゃんと事前連絡が来る。良きことかな。
2年のクラスでも学級委員長を引き受けていた。なり手が早々いる訳でもないし、慣れているからさほど気にならないし陽子ちゃんもどうせやっているだろうから彼女がいるなら学級委員長の集まりである総務委員会もまた楽しからずや、という所でさっさと立候補して対立候補も出ずにB組の委員長となった。そしてそこでD組の吉良小夜子と出会う事になった。
吉良は悪い奴じゃない。ただ真面目すぎる。その頑なさはダイヤモンド並みだと陰口を叩かれていた。なにせ去年は風紀委員会に属していて制服の着こなしについていろいろと口やかましく言っていた最右翼、急先鋒なのだ。
そして最初の総務委員会の会合で2年D組の学級委員長としてある提案をしてきた。発言を認められると左側に赤い髪留めを付けた短い黒髪にピシッと来こなしているブレザー、緩みのないネクタイが凛々しい吉良は制服の着こなし問題について果敢に提議した。
「制服はちゃんと着用してこそ美しく見えるのに、ネクタイの締め方などだらしない人も多く見受けられる。もっと各学級委員長が風紀委員に協力してクラスの引き締めに当たるべきではないのか」
3年生で昨年の選挙では神村会長から禅譲されるはずだった副会長を破って当選、がっしりした体格から包容力ナンバーワンじゃないかと勝手に噂されている大村会長は吉良さんの提案に対してさらりと見解を述べた。
「吉良さんの意見は分からないでもないけど、総務委員会の総意としての取り組みをすべきほどの状況じゃないと思うが。僕の意見に賛同してくれる人は挙手を」
会長にこう言われて挙げない人は吉良を除くとあと一人だけだった。
「吉良さんの意見自体は貴重だ。いい指摘をありがとう。まずは各クラスで大事にならないように注意して風紀委員を助けていこう」
という玉虫色の中身のない結論を出して閉会となった。
三重陽子
委員会終了後の帰り、肇くんと一緒に帰った。彼は怒り半分、笑い半分というよく分からない表情をしていたけど、結局怒りについて触れることにしたらしくこんな話をしてきた。
「なんかむかつく話だったなあ」
原因については想像はついた。
「肇くんがむかつくとか余り言わないのに。吉良さんの提案、そんなに頭にきた?」
「人の事をとやかく言って正したがるのは、あまり好きじゃないんだ」
やっぱり吉良さんが嫌だったらしい。それは私も同感だった。
「大村会長が今回はああして止めてくれたけど、もしそうじゃなかったら歯止めはなさそう」
「俺もそう思うよ」
この時点で私達は冬ちゃんを応援して関わっていくしかないと思った。吉良さんみたいな人がもし出馬したらという事もあるし、ああいう話を持ち出す相手が冬ちゃんの制服改革について賛同するとも思えなかったのだ。
「肇くん、1年間とっても忙しくなるけどいいのかな?」
「言わなかったっけ? 俺、中学校の時、一応生徒会活動はやってたんだよ。古城の奴、学校側との折衝とかお母さんのアドバイスはあると思うけど、俺もそういう知識はあるし活動自体の免疫がない訳じゃない」
肇くんの話はいろいろ聞いて来たけどまだまだ知らない事はあったというのはたかだか1年の付き合いに過ぎないとは言え新鮮だった。
「聞いたことなかったなあ。肇くん、中学校の時は何をやってたの?」
彼はあまり大した話じゃないんだという体で軽い感じで教えてくれた。
「副会長。名前だけだったな。2年生の時、1年生で選挙好きな奴がいてあやうく会長選に立候補させられそうにはなったけどそいつからは逃げ切った」
これは更に思わぬ話だった。
「そこまでラブコールされても断ったの?」
肇くんはお手上げの仕草をして頷いた。
「あいつ、お飾りの会長が欲しかっただけだったからね。そいつは翌年会長になって色々ときちんとした仕事をやってたよ。水面下では学校側にすごく敵も作ってたけどね。表に出させなかった所が凄かった」
そんな話をした後に私達は立ち止まってスマフォで冬ちゃんに「この間の話、返事しようと思うんだけどアイスコーヒーぐらいは奢ってほしいな」と送ったのだった。
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