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『わかったから授業に集中しなさい』
読み終えると同時に目の前にある頭を握った拳で叩いた。その現場を先生に見られて怒られる。
何で私なのよ。とは言えず黙ってうつむいた。沙羅はくすくすと小さく笑っている。今度は先生にバレないようシャーペンの先で背中をチクチクとつついた。
結局私はその後の授業の残り時間を何一つ集中できずに終えた。
「千花! さっきの話の続きなんだけど!」
授業が終わったとたん、沙羅が何事もなかったように私に話しかけてくる。
「その前に、よくも私の集中を乱してくれたわね。購買のクリームパンと、追加でコーヒー牛乳おごってもらうからね」
「ごめんごめん、ノートは私の一ページあげるから許して」
「いらないわよ! クリームパンよ!」
今日のお昼休みにクリームパンとコーヒー牛乳をおごるという確約をさせると話が本題に戻った。
「それで、メリーさんの話なんだけど知ってる?」
「知ってるって書いたでしょ! まさかここまで私のノートが無駄だったとはね」
「まあまあ、それはいいじゃん。それでね」
「いいことないわよ! 明日もおごってくれるの?」
「たんま! 休み時間終わっちゃうから!」
確かにこのまま休み時間が終わるとまた授業に集中できないかもしれない。仕方なく私は沙羅の話を聞くことにした。
「よし。でね、メリーさんは夜一人の時に現れるの。現れるって言っても何もしてないのに突然目の前に出てきたり、振り向くと後ろにいたりとかじゃなくって少しずつ少しずつ私たちに近づいてくるのね。そんで近づいてくる度に非通知から電話がかかってくる。電話に出ると
「私メリーさん、今どこどこにいるの」
「私メリーさん、今どこどこにいるの」
って今メリーさんがいる場所を教えてくれる。気がつくとメリーさんは家の近くまで来ていて、怖くなって電話に出ないでいると玄関のドアの方から
『こん』
『こん』
と軽いノックのような音が聞こえてくる。こうなってしまったら布団にくるまって戸締りをちゃんとしていたことを祈るしかない。そうこうしている間にまた電話がかかってくる。着信は相変わらず非通知で相手が誰かわからないけど、ノックの音も相まってメリーさんが電話の主だって分かってしまうの。恐怖のあまり電話に出ないものだから着信音とノックだけが部屋の中にこだまする。目をつぶって耳を塞いで
「ごめんなさい、ごめんなさい」
とひたすらつぶやいているとスマホを触ってもいないのにスマホから声が聞こえてくる。
「私メリーさん、今あなたの家の前にいるの」
スマホを確認すると勝手に応答してスピーカーになっている。赤いマークをタップしてもスワイプしても電話は切れてくれない。スマホからは、さーっという軽い砂嵐のような音がずっと聞こえている。
「早く切れて、早く、ごめんなさい」
何度電話を切ろうとしても一向に切れない。布団の中で彼女はスマホを耳を当ててひたすらに謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
するとその気持ちに応えるようにメリーさんが返事をするの。
「私メリーさん。今あなたの目の前にいるの」」
背筋がぞくっとする。可愛い見た目から想像できないほど沙羅には怪談話の才能があると思えた。
「あんた、噺家にでもなればいいわ」
「美少女噺家? だめだめ誰も聞いてくれないよ。どうせみんな体ばっかり見るんだから」
確かに小さくて可愛い見た目に大きな胸ときたら噺家ではなく一種のグラビアアイドルになってしまうかもしれない。怪談が上手なグラビアアイドル……売れなさそうだ。
「そんなことよりさ、メリーさんって何者か知ってる?」
「え?」
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