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心地良い風が、サラサラと俺の髪を撫でて行った。
中庭の隅にある木製のベンチの上で、何度目かの欠伸をする。
俺は授業中の静かな時に、この場所で昼寝をするのが一日の楽しみの一つだった。
人と話したり、同じ空間に居ることは苦手ではないが、たまに一人でのんびりしたくなる時もある。
そんな時俺は、特待生という権限をフルに使って、こうしてゴロゴロと中庭をひとりじめするのだ。
——なぅ。
「……ん? ああ、お前さんか」
訂正、もう一匹常連がいた。
ふてぶてしい程のすまし顔で、のっそりと近付いてきたのは、この時間にたまに一緒に昼寝をする仲になった三毛猫だ。
マシュマロのような姿でも猫は猫なのか、案外身軽に俺の腹に乗ってくる。
……重い。
「みけ子さん。元気だったか?」
——なーお。
「元気そうだな」
時々、本当に会話が成立している様な気がするくらいには、俺の言葉に反応してくれる。
昼寝をしていたらいつの間にか傍に寝ていることが多いこの三毛猫は、誰かが『みけ子さん 』と呼んでいるのを聞いた。
だから俺も、自然と『みけ子さん 』と呼ぶようになっていた。
「明日は雨らしいぞ。みけ子さん。濡れるなよ」
——なぅ。
「俺も明日は教室に行こうかな」
——なー。
「眠そうだな。……おやすみ。みけ子さん」
——……なぅ。
腹の上の温度を確認しながら、俺もゆっくりと目を閉じた。
少し横を向くと、赤いピアスがチャラリとベンチにあたる。
頬の冷たい感触に心地良さを感じながら、ゆっくりと夢の中に落ちていった。
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