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牧瀬の顔は整っていて、いわゆるイケメンと呼ばれる部類には入るだろうし、モテる部類でもあるだろうということは前に会った時も感じ取れていた。だけど、香澄には苦手なタイプである。
それは一生も同じで、軽いか軽くないかだけの違いがあるだけ。
「俺も君のことを覚えているよ。板谷香澄ちゃん。かわいい子は絶対忘れないのが俺の特技だからね」
「あ、それはどうもです……」
またもやウインクされて、鳥肌が立ってしまった香澄は思わず腕をさする。
「ところでため息つくと幸せが逃げるよ」
「はい?」
「まあ、いいや。今度一緒にご飯食べようね!」
「えっ?」
「いいや」と言った直後、食事に誘うとは、やはり変な男だ。言うだけ言って、先にエレベーターを下りていく牧瀬を見送ってから、香澄はまた溜め息ついた。
最近、ろくな男に会わない。変な男ばかりに会う。ツイてない……。
「香澄さん、おはようございます!」
更衣室に寄ってから、広告宣伝部のドアを開けるとまず一年後輩の寺沢由梨(てらさわゆり)の声が第一に届いた。由梨の声は柔らかくて癒し効果があると常日頃から思っている香澄は強張っていた頬の筋肉を緩める。
「由梨ちゃん、おはよう」
「そうだ! 昨日の合コンはどうでした?」
緩まった顔は何も知らずに聞いてきた言葉によって、再び固まる。香澄から出る声のトーンは低かった。
「何もない。いい男いなかった。時間の無駄だった」
「やっぱり社内で見つけましょうよ。他の部署には意外にいい男いたりしますよ。他の部と合コンなんて、どうですか? 私、セッティングしますよ」
そっと慰めるかのように由梨は香澄の肩に手を置いてから、明るく言う。他部署……昨日会った一生とついさっき会った牧瀬の顔を思い浮かべ、首を振る。
あの男たちが全てではないと分かってはいるが……今はついていない時期だ。
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