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香澄も由梨に連れられて来ていた。由梨は人垣の間から見ようとぴょんぴょん動いている。
「見えないですね。香澄さん、見えますか?」
香澄の身長は由梨よりも五センチほど背が高いが、香澄よりも大きい人も多くいる。特に男性社員には背伸びしてもかなわなく、見えなかった。
「ダメだわ。見えない。前の人たちがいなくなるまで待つしかないわね」
「そうですね」
ふたりは無理をしないで、少しずつ人が減っていくのを壁際に寄って眺めていたが、やっと難なく見えるようになって、前へと近付いた。
「あ、うちには三人来るみたいですね。えーと、まず桐山一生さん? 聞いたことない人だな。香澄さん、知っています?」
振り返る由梨に返事をしないで、香澄は固まっていた。広告宣伝部と書かれている下に桐山一生の名があったからだ。
あの変な男がうちの部に来る? 嘘でしょ?
「あれ?香澄さーん、おーい」
「あ、ごめん……」
由梨に肩を揺らされて、香澄は我に返ったが、今回の人事異動はとてつもなく嫌な予感がすると思うのであった。
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