真剣な求愛

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そして、四月になって最初の朝。課長の隣りには三人の男性が並んでいた。見た限りほぼ同じくらいの年齢に見えるが、実際その中で一生が一番若い。 「えー、今日から広告宣伝部の一員になった三名を紹介する。まずは桐山一生くんだ。桐山くん、簡単に自己紹介をお願いします」 「はい!本日付けで商品開発部からこちらへ異動になりました桐山一生と申します。入社六年目でただいま28才です。六年経ってもまだまだ未熟者で、皆様にご迷惑をお掛けすることも多々あるかと懸念いたいしますが、ご指導いただけますと大変助かります。どうぞ、よろしくお願い致します」 やや普通よりも丁寧な挨拶であったが、とりあえずまともな挨拶だった。香澄は他の社員と共に歓迎の拍手をした。 朝礼が終わり、一生は用意されたデスクに座り、辺りを見回す。真後ろのデスクに座る香澄に目が止まる。 「香澄さん!」 「うわっ!あ、桐山さん……。えっと、何でしょう?」 突然一生に大きな声を掛けられて、香澄は椅子から落ちそうなくらい体を動かした。心臓に悪すぎる……。 「先日はありがとうございました。あの、同じ場所で働けるようになりまして、大変光栄です。これからよろしくお願いします」 「はあ…よろしく」 「あれ? 香澄さん、桐山さんとお知り合いだったんですかー?」 香澄の向かいに座る由梨が不思議そうに見る。香澄は視線を由梨から一生に向けてから、大きく首を横に振った。 「いや、知り合いっていうほどじゃない」 「僕が一方的にですが、求愛させてもらっています!」 「ええっ! 求愛?」 求愛なんて言葉を口にする男は珍しいので、由梨が驚くのは当然だが、頭が痛くなった香澄は額に手を当ててから、一生を睨む。 「ちょっと、何を言い出すのよ。勝手なことを言わないで」 恥ずかしがることなく自分の気持ちをさらけ出す一生を香澄は咎めた。 一生が声を出すよりも先に興味津々な顔で由梨が聞く。 「桐山さん、もしかして香澄さんが好きなんですか? ふたりは一体、いつからの知り合いですか?」
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