真剣な求愛

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一生の「求愛」という言葉に周りの社員も反応して、ざわめく。 「どういうこと? ふたりはそういう関係なの?」 「香澄ちゃんはどう返事しているの?」 「桐山さんはいつ好きと伝えたの?」 いろんな質問がフロア内を飛び交う。一生はみんなからのたくさんの質問にどこから応えようかと狼狽えた。真面目に1つ1つ答えようと考えていたのだった。 一生と違い、香澄は自分がその質問の的にいるのが耐えられなってきていた。 誰か助けて。 この場を何とかしてー! 香澄は心の中で叫ぶ。 「おい!仕事はどうした?やるべきことはあるだろ?さっさと動け!」 助けてくれたのは課長。しかし…… 「板谷も桐山もそういう話はまず俺に報告しろよ」 課長も興味があったらしい。それでも課長の一声でみんな業務に戻っていく。香澄はホッと胸を撫でおろして、一生に背中を向けて、中断してしまった業務を再開させる。 一生からの視線を感じてはいたけど、気付かない振りを貫く。一生のことは無視しようと決めた。関わってもろくなことにはならないのは目に見えている。 しかし、同じ部署にいると、無視したくても無視出来ない状況になりかねない。異動してきたばかりの一生は分からないことが多い。 一応業務内容マニュアルのファイルには目を通してみたが、いくつかの疑問点が出てきた。誰かに教えてもらおうと近くに座る社員に目をやる。 みんな忙しそうに動いている。邪魔はしたくないが、後ろを振り向いて……愛しい人の名前を呼ぶ。 「香澄さん」 後ろに座る香澄の方へ椅子ごと歩み寄る。香澄の肩がビクッと揺れる。 関わりたくもない一生から声を掛けられて、眉間に皺を寄せる。だけど、呼ばれて無視することは出来ない。ここは社内だから、仕事のことかもしれないし。大人の対応をしよう。 「はい……」と低めの声で返事をする。 「いくつか分からない点があるので、教えていただいてもよろしいでしょうか?」 「なぜ私に?」 関わりたくないから、他の人に聞いて欲しいという願いを込めて、香澄は一生のネクタイ辺りを見ながら言った。顔は見たくない、視線は合わせたくない。だから、顔を上げない。 「他の方とはまだお話をしたことがありませんので、お話をしたことのある香澄さんに教えていただきたいと思いましたが、ご迷惑でしたか?」
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