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この場にふさわしくない言葉を発した。
「僕、やっぱり香澄さんと付き合いたいと思っています。僕のことをもっと知ってください。香澄さんが望むことなら何でもやりますから、お願いします」
ふさわしくない場での真っ直ぐな言葉。香澄は心は全然動かされない。ただ迷惑だとしか思えない。
「別に知りたいとは思わないけど」
「何か望みはないでしょうか? 何でも叶える自信があります」
望みね……香澄は顎に手を当てて、即答した。
「とりあえず、今私に話しかけないで。酔っ払いと話すのはイヤなの」
「す、すいません。そんなに酔いが回っているつもりはないのですが」
自分の状態、自分の行動を自覚してない一生はイヤだと言われても、この場から動くつもりはなかった。謝りはするけど、腰をあげようとはしなかった。香澄の近くにいたいからだ。だけど、香澄から再度告げられる。
「私からのお願い。ここから離れて。他の人と飲んでくれない? 私から見えないところで」
「そんなー、僕は香澄さんの隣で飲みたいです」
頬を赤くして、少し潤んできた瞳で訴える。酔いに任せて甘えたい気分にもなっていた。だけど、どんな瞳で見られても香澄の心は変わらない。
「あー、面倒。鬱陶しい……。分かった、私があっちに行く」
一向に動こうとしない一生に痺れを切らし、香澄が席を立つ。そして、離れたとこで楽しそうに話す五人の輪の中に入っていった。
一生は後を追いたい気分だったが、その場に留まり、楽しそうに笑う香澄をただ眺めていた。酔っている一生はとりあえず見えるところに行ってくれたのが嬉しくて、香澄の笑顔を見るだけで幸せな気分になっていた。
「お疲れ様でした。気をつけて帰ってください」
歓迎会がお開きになり、それぞれが家へと帰って行く。香澄は近くの駅へ向かって、歩き出す。
「香澄さん、待ってください。送ります」
一生が香澄の腕を掴んで引き止めた。
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