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「そんな赤い顔の人に送ってもらいたくない。ひとりで帰れるから大丈夫。さようなら、お疲れ様でした」
「顔は赤くてももう酔っていません。だから、送らせてください」
「ついて来ないでよ」
掴まれた腕を振り払って歩く香澄を一生は追う。絶対に一生から離れたい香澄は早足で歩く。酔っていないと言う一生の足取りは少々おぼつかないが、意識はハッキリしているから必死で追いかける。
「あれー? 桐山に、香澄ちゃんじゃないか!」
「えっ?」
一生と香澄は同時に立ち止まり、声のした方向を同時で向く。そこには反対側の歩道からこちらに手を振る牧瀬がいた。牧瀬は車が来ないのを確認して、ふたりのもとへと渡った。
「牧瀬くんじゃないですか?」
「どうしてふたりが一緒にいるの? 変わった組み合わせだね」
「今日は僕の歓迎会を開いてもらって、先ほど終わりまして、香澄さんを送っていこうとしていました」
「桐山が香澄ちゃんを追っているように見えなかったけど。お前、絶対に嫌がられているだろ?」
誰が見ても嫌がられているのは分かる状況であった。分かっていないのは当事者である一生だけだ。
「えっ? 嫌がっていたのですか?」
「桐山は本当に鈍いよな。香澄ちゃん、ものすごく迷惑そうだよ。ね?」
「はい。迷惑しています」
香澄はどうでもいいから、早く帰りたかった。こんなところで足止めをしていたくない。牧瀬が一生を引き離してくれるなら、大歓迎だ。だけど、牧瀬は耳を疑うことを言った。
「じゃあ、俺が香澄ちゃんを送って行くよ」
「はい?」
思いがけないことを言われて、香澄は唖然と口を開けてしまう。どうして、牧瀬が送るという話になるのだろうか。おかしい……。
「ダメですよ、牧瀬くん。僕が送ると決めたのですから、邪魔しないでください」
「だって、お前は嫌がられているじゃん。だから、俺に任せておけよ」
「牧瀬くんが送るのは危険だから、任せられません。僕が送ります!」
「失礼だなー。俺の方が送るのにふさわしい」
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