迷惑な求愛

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「香澄さん、桐山さんに対していつも冷たいですよね。桐山さんの方が一応年上なのに」 由梨がまだ自分達を見ている一生にチラリと視線を向ける。ガックリと肩を落とす姿が痛々しく見えた。 「だって、あの人、面倒くさいじゃない? ああいう人、嫌いだから、優しく話をする気にもならないのよ」 興味のない男に優しくする必要はない。振ったのに諦めの悪い男なら尚更である。諦めの悪い男は扱いが面倒だ。出来る限り、関わりたくない。 どうしたら自分のことを諦めてくれるだろうか……。カフェに着くまでの道のりで、諦めてもらう方法を考えたが、良案は浮かばなかった。 定時まであと30分。香澄は時間を確認して、余裕で終わりに出来ると判断。スマホで佳菜子へ「予定通りに行ける」とメッセージを送信。 その時、「香澄さん」と一生が声を掛ける。香澄は手を休めないで、「何?」と返す。帰るまであと30分。絶対に邪魔されたくない。 「このレイアウトですか、ここの右側のスペースは少しバランスが良くないと思いませんか?」 一生が手に持っていたのは先日途中段階でプリントアウトした口紅の広告だった。それの文字入れを香澄がほぼおこなった。 「はい? それのどこが悪いの? 別におかしくもないし、何も問題ないでしょう?」 自分の作成したものにケチをつける一生を疎ましく思うが、動いていた手を止めてしまった。時間は刻々と過ぎていくというのに。 「ここですよ。ここのバランス、どうしてこうなるのでしょうか? このスペースがあるから、ここの文字が引き立たないのかと思うのですが」 「は?どうしてって、そのスペースには白精のロゴを入れる予定になっているの。だから空けてあるの。大体それはまだ完成じゃないです」 完成してないものに文句を言われる筋合いはない。香澄はかなり不機嫌な声を出し、イライラするようにデスクを指でトントンと叩く。
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