迷惑な求愛

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「香澄さんに今日お会い出来て、本当に良かったです。ソファーも買うことが出来ましたし、気分は最高です」 インテリアショップを出て、並んで歩く。一生の手にはまだ香澄のカーテンが入った袋がある。浮かれた顔をする一生をチラリと見て、香澄は表情を曇らせた。 「桐山さん、それ、ありがとうございます。私は、こっちに行くので」 香澄は一生の手からカーテンを取り、クルッと方向転換して、走り出した。 「えっ、香澄さん!」 香澄の素早い行動について行けず、一生はいつの間にか小さくなっていた後ろ姿をただ見るだけであった。重いカーテンを持って走る体力があるとは……。 一生から離れた香澄は後ろを振り返り、付いて来ていないことを確認して、胸をなで下ろす。一生のペースに流されそうなっていたから、なんとか離れられたことに安堵する。 今夜は長谷部と食事の予定だ。香澄は帰宅してカーテンを付け替えた。約束の時間に向けて準備をするが、ものすごい疲労感に襲われ……外出する気力が失くなった。 それでも約束だから重い腰を上げて、パンプスを履くけれど、目眩して体を壁にぶつける。これでは無理と判断して、長谷部には断りの電話を入れた。 「ゆっくり休んで」と優しい言葉で了解してくれたので、ふらふらとベッドに向かい、横たわった。目を閉じると浮かぶのはなぜか一生の顔。 「こんなに疲れたのは絶対アイツのせいだ……」 一生は一応香澄より一年先輩である。それをアイツ呼ばわりするほど、香澄はなぜか苛立っていた。 「本当にもう、最悪だ。文句言ってやりたい。でも、顔見たくない……、見ないで文句を言うにはどうしたらいいかな。ふぅー……」 ブツブツ言いながら、眠りに落ちていく。
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