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香澄は半年くらい前にショッピングモールで美砂が婚約者と買い物しているところに偶然会った。紹介がてら近くのカフェに三人で入り、楽しく話をさせてもらった。
その後、何度か美砂から堂々としたのろけ話を聞かされ、幸せそうでいいな、理想的な恋人だなと思っている。
「どうかな。いざ暮らすとなると不安もあるのよ」
「でも、大丈夫ですよ。和司さん、優しいですもの」
「まあ、確かに優しいけどね。そういえば、香澄ちゃんたちはどうなの?」
「私たちとは?」
香澄には付き合っている人はいない。誰とのことを言っているのだろうとキョトンとする。美砂は楽しそうに一生を見た。
「桐山くんの求愛のその後よ。どうなのよ?」
「んぐっ」
「わっ、大丈夫ですか! 香澄さん……」
口に入っていたカツを喉に詰まらせそうになる香澄の背中を一生がさする。まさか一生とのことを、本人目の前にして聞かれるとは思いもよらなく、動揺してしまった。
「大丈夫……。あの、桐山さんとは何もないですよ」
香澄は一生の手をどけるように押し、ハンカチで口を拭く。そんなふたりの様子を微笑ましく思う美砂は笑う。
「だって、ふたりは良いコンビだと思うんたもの」
「良いコンビ?」
香澄は首を傾げる。この人とどう見たらよいコンビに見える? 美砂の目はおかしいのではないか? なにをどう見て思うのか?
「桐山くんが香澄ちゃんに想いを寄せているのはうちの部全員が知ってることだよ。桐山くんが求愛しているってはっきり言ったからねー」
美砂は笑いながら、話を続ける。香澄の頬は引きつる。余計なことを最初に言うから、みんなからの視線が時々気にはなっていたが、誰もなにも言わないから一生の冗談だと思ってくれていると自分の都合よく判断していた。
しかし、違っていた。みんな静かに見守っていたのだった。
「それなのに香澄ちゃんの桐山くんへの態度ってものすごく冷たいじゃない? 香澄ちゃんが冷たくするのって、桐山くんだけでしょう?」
確かに香澄は一生にだけ冷たい。でも、それは一生があまりにも鬱陶しいから。
「だから、見ていて面白いのよ」
「そんなー。面白がらないでください」
香澄は楽しそうに話す美砂に不平を言う。一生の求愛に困っているというのに、面白いと見られていると知り、先輩とはいえ本気で怒りたくなった。だけど、その後の言葉を聞いて、怒りを静めた。
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