876人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございます。そんなふうに言っていただいて、心が軽くなりました」
一生は再び頭を下げて、香澄の前に座る。そして、自分の気持ちを軽くしてくれようとする気遣いを見せた香澄を眺める。それから、楽しそうに話す香澄と佳菜子の会話に耳を傾けていた。
「香澄さん、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい。何でございますでしょうか?」
ほろ酔い気分で、ご機嫌になってきていた香澄は一生の口調を真似て、丁寧に返してみた。
「僕と付き合ってみませんか? いかがでしょう?」
「はい? いかがでしょう?って……」
またまた予想外のことに香澄の先ほどよりもさらに目を丸くさせる。一気に酔いがさめそうだった。
「香澄さんとお付き合いをしたいと考えております。僕とお付き合いしてください」
そう何度も交際を申し込まれても、言葉を返せない。
一体この人は何を言っているの?
付き合うとはどこへ?
トイレに? でも、私は女だから一緒には無理……よ?
香澄はお付き合いの意味を考えた。まともな話に聞こえなく、なにか間違えているのではないかと疑う。
「さすが一生! 大胆な告白だな」
隣に座る矢島が背中を叩いて、笑う。
告白? そうか、これは告白で私は告白されている……。香澄はようやく「いかがでしょう?」の意味を理解して、今置かれている状況も理解した。
しかし、「お断りします」とキッパリ断った。
一生は断られて、すぐに引き下がる男ではない。意外に諦めが悪い男なのだ。
「どうしてですか? 僕ではお気に召さないでしょうか?」
「いや、気に入らないというわけではないけど……」
「では、付き合いましょうよ」
一生は意外に強引な男でもある。ちゃんとした理由がない限り、諦めるつもりはない。強引であろうとも香澄と何が何でも付き合いたかった。付き合いたいと思う理由がちゃんとあるからだ。
最初のコメントを投稿しよう!