秘密な求愛

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秘密な求愛

今日は朝から会議。 「今から昼休憩にします。一時半から再開しますので遅れないようにしてください。では、ひとまず解散します」 ガタッガタッと進行役の主任の声で第一会議室にいた約20名が立ち上がる。 「香澄ちゃん、外で食べようよ。あ、桐山くんも一緒に行く?」 「はい! お誘いいただき、ありがとうございます」 香澄の三年先輩である及川美砂(おいかわみさ)が香澄と一生を誘う。香澄と一緒ということで一生の声は弾んだ。香澄はまさか一生が一緒になるとは思わなかったが、先輩からの誘いを理由なしに断れなかった。 オフィス横の交差点を渡り、反対側を歩く。三人が入ったところはトンカツ屋である。「肉が食べたい!」という美砂のリクエストで、一生と香澄も賛同した。 「午前中で終わるかと思ったのに、長引いてるわよねー。今日は残業かも。早く終わらせてくれないかなー」 「そうですよね」 「今日は早く帰りたいのに」 「お待たせいたしましたー」とうな垂れる美砂の前にヒレカツ定食が置かれる。香澄と一生の前にはロースカツ定食が置かれた。美砂は茶色いシュシュで長いストレートの髪を括って、手を合わせる。 「よし、食べて気合いを入れよう! いただきます」 「いただきます」 香澄はウェーブのかかった肩にかかる長さの髪を耳にかけて、カツから食べ始めた。 「美砂さん、今準備に忙しいですものね。私にお手伝い出来るることがあれば言ってくださいね」 「うん、ありがとう。頼りにしているわ」 美砂は年末に結婚退職する予定になっている。結婚式や新居に向けての準備をしているからプライベートも忙しい。今回の新商品プロジェクトは美砂にとって、最後の大きな仕事だから仕事に関しても力を入れている。 充実はしているけど、疲れが溜まっていく一方である。 「和司さんとはいつから住むのでしたっけ?」 「8月のお盆休みに引っ越しする予定よ」 「わ~、楽しみですね!」
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