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電車に揺られること約二十分。高校前の駅に到着した。
お決まりのアナウンスを耳にして、左のドアからホームに降りた。
交通系ICカードをかざして改札を出る。右手には、私の通う高校がもう見えていた。駅からの距離が近いのは本当に助かる。
「おはよ~」
交差点で足を止めていた時、後ろから声をかけられた。
「おっはよ、早希!」
「早希、おはよ」
肩までのさらさらとした黒髪。それを撫でるように触りながら、早希は隣に並んだ。
信号機が青に変色し、止まっていた人たちが一斉に歩き出す。周りを見ると、ほとんどが生徒だ。電車通学以外の生徒もこの交差点は必ず通る。だから、毎朝こういう光景になるのだ。
「最近また太った」
「タピオカばっか飲んでるからでしょ」
「的確な指摘はいらないの!」
口々に話をする生徒に紛れて、恵美と早希もそんなやり取りを交わしていた。
「クリスマス、どっか行こうよ」
「お、いいね! 莉乃も行くよね?」
「え?」
唐突な提案に思わず戸惑ってしまう。少し考えてから、
「私はいいかな」
と、答えた。
「えー、なんで?」
「なんとなく……かな」
「せっかくクリスマスはパーティーだと思ったのに!」
「さっきは彼氏じゃなきゃ駄目とか言ってたじゃん」
「それは別! 友と過ごせるなら全然いいの」
「あはは……」
そんな私と恵美の会話を苦笑いで聞いている早希が口を開いた。
「じゃあクリスマスは普通に過ごそっか」
「えー!」
「彼氏作ればいいじゃん」
「そんな簡単にできたら苦労しないわ!」
早希の気遣いに「ごめんね」と両手を合わせて伝えた。早希はにっこりと微笑んでくれる。もはや恒例のパターン。
私は部活もやらなければ放課後に遊びに行くこともない。恵美からは「そんなの女子高生じゃない!」って言われるけど、私は別にそれでよかった。もっと有意義に時間を使いたいから。けど結局それもできなくて、何をしてるのかわからなくなっていた。
あと一年の高校生活。もっと青春しなきゃなって、最近は思っている。今みたいな誘いにも乗らないと。でも、首を縦に振るのはそんな簡単なものじゃなかった。
「じゃあね」
「うん、また後で」
昇降口で二人とは別れて階段を上る。クラスが違う私は、いつもここで一人になるのだ。
「はあ……」
「どうしたよ?」
「うわあ!」
いきなり声が飛んできてバランスを崩す。階段から転げ落ちそうになったところを声の主が支えてくれた。
「危ねえな」
「ご、ごめん……てか急に声かけてくるから!」
「俺のせいかよ!」
体を起こしてもらって、とりあえず階段を上りきった。
「今日は早いじゃん」
「いつも遅刻してるみたいに言うな」
「まずいつも来てるっけ?」
「どんだけ俺のこと見てないんだよ……」
頭を掻きながらそう言ってきた。このだらしない男は凌。クラスメートであり、私の幼馴染みでもある。男子の中では身長が低く、158cmの私より少し高いくらいだ。
教室へ入って席に着く。他の男子に何かを言われて赤くなっている凌を横目に、私は窓から外を眺めた。
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