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体育館で校長の話をお尻が痛くなるまで聞かされた。それから教室に戻って、担任の話もあったが適当に聞き流した。
今日が終業式だったことを完全に忘れていた。今朝の話題にならなかったから尚更だ。
「やっと終わった」
独り言を呟いて席を立つ。廊下まですたすたと歩く。まだ教室で話をしている生徒が多いが、私はそういう空気が苦手だ。
「おーい」
「……」
「無視すんなよ!」
私の背後から隣、隣から目の前へと移動した凌がそう言ってきた。
「邪魔なんだけど」
「冷たいなあ」
「で、なに?」
正直さっさと終わらせて帰ってしまいたい。こうやってだらだら過ごすのは嫌いなんだ。
「そのさ……」
そこで一度区切ると、凌は俯いてぶつぶつと何かを唱えて始めた。
「帰るよ?」
「待て待て!」
「……」
目を細めて早く用件を話すよう促す。
「えっと……クリスマスって予定ある?」
「ないけど、なんで?」
「その、久しぶりにどっか行きたいなって」
「行けば?」
「なんでこの雰囲気でそうなるんだよ!」
「はあ?」
「だから! どっか行かないかって聞いてるの!」
「……」
鈍感な私でも流石にこの意味には気づいた。デートの誘いだ。
そう考えると無性に恥ずかしくなってきた。顔が火照る。
「……嫌か?」
「えっ」
凌の表情は少し冷めている。何かを察した顔。返事もしてないのにもう諦めている。
「まあ、気が向けば来年にでも……」
「……嫌とは言ってない」
凌が言い終える前にそう遮る。視線を逸らして床を見つめた。慣れない状況には、こうするしかない。頭がおかしくなりそうだ。
「ほんとか!?」
急に声のトーンが明るくなる。
私は俯いたまま、首を縦に振った。
「わ、わかった! 詳しくはまた連絡する!」
凌はそう言い残すと、私の前からそそくさと去った。私も他の生徒が出てきているのに気づき、昇降口へと向かった。
「ねえ莉乃」
「ん?」
「さっきのは何?」
「えっ?」
それを聞かれたのは、校門を出て交差点の信号を待っている時だった。
「何のことでしょう……」
「とぼけても無駄よ! 私が莉乃をお迎えするために階段を上っていたら、あいつとの会話が聞こえたんだから!」
まさかの盗み聞き。こうなってしまっては言い訳もできない。ここは早希になんとかしてもらおうと、視線で合図を送った。
「まあまあ、別にそこまで追及しなくても……」
「駄目! 一人だけ彼氏とクリスマスなんて許さない!」
「彼氏じゃないけど!?」
残念なことに早希の言葉も通用せず、勝手に彼氏認定されてしまった。
「彼氏……」
駄目だ駄目だ! そういう考えはもうやめよう!
心の中で自分に言い聞かせて、平常心を保つ。
「あれ? そういえば早希は彼氏いたよね?」
「まあいるけど……」
「嘘ぉ!?」
裏切ったなという表情で早希を睨んでいる恵美。
助けてくれと早希に目で訴えられるが、「すまない」と謝るポーズをして先に横断歩道を渡った。
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