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お洒落な内装の喫茶店。妙に落ち着く雰囲気があり、ジャズ調の音楽が流れていた。
注文した料理はすぐに食べ終え、時間を確認する。時刻は午後三時。
「んじゃ、行くか」
「うん」
今度こそ水族館へ向かった。
四方が水槽で囲まれている通路。様々な魚や哺乳類が水中を泳いでいる。
「綺麗……」
群れになった鰯が眼前を通る。一体化した美しい姿からは、大自然の迫力が見て取れた。
その後も他の水槽を見て回り、イルカショーなどを堪能した。
楽しい時間は思ったよりも早く過ぎ、気がつけば午後六時になっていた。
「そろそろ行くか」
「そうだね」
自然とこぼれた笑顔で答えた。
街はどこもかしこもライトアップされ、辺り一面が光り輝いている。この時期は毎年イルミネーションが設置されているのだ。
真っ白な橋を並んで渡る。なんだか心臓がばくばくしている。
「……」
二人の間に静寂が流れる。車道を走る車の音や、同じように橋を渡るカップルの会話。その全てに耳を傾けていた。
しばらくすると、徐々に人気が少なくなっていった。私たちが目指している方向には神社がある。特に打ち合わせをしたわけではないが、自然と足は進んでいく。
先ほどまでは眩しいくらいに灯っていた明かりが、ここにはほとんどない。暗闇の山道を歩きながら凌の横顔を目に映した。
ただひたむきに前を見つめる瞳。少し気だるそうな表情。どちらもいつもと変わらないのに、ちょっとだけ心強く感じた。
「あー、疲れた」
神社まで上ると、凌は疲労を露にした。
それでもすぐに「せっかくだから」と参拝をして、鳥居まで戻る。
鳥居からは街の様子が微かに見える。煌めく夜の街を眺めていると、雪が降り始めた。
「……なあ」
「なに?」
「伝えたいことがあるんだ」
「……」
振り向くと、真剣な眼差しで私を見据える凌がいた。
風に揺られて雪が舞う。
今まで感じたことのない、高鳴る鼓動。平気なふりを装いながらも、胸はどんどん締め付けられる。
凌は一つ大きな深呼吸をして、私に向き合った。
「好きだ」
「……」
微動だにしない口角。本気の言葉。
私も素直に自分の想いを告げる。
「私も、好き」
時間が止まる。満天の夜空も私たちを見守っている。まさに、二人に愛が生まれた瞬間だった。
降り続く雪に手を伸ばす。ぴたりと手のひらに張り付いた結晶は、数えるほどで溶けた。
「雪ってこんなに綺麗だったんだね」
「二人で見るから格別なんだよ」
「あ、そっか」
私が恋を知った、一生に一度のクリスマス。
この日が脳裏から離れることは、決してないだろう。
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