ミナミ先輩は嘘が嫌い

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「というわけで歩クン、貴方は志帆ちゃんの想いから解放されたよ」 「……解放されなくてもよかったです」  保健室。 気絶していた僕は、手を怪我しているミナミ先輩から養護教諭がいなくなった時、経緯を聞いていた。 「どうして?」 「だって、結局は僕の所為じゃないですか」 「死んだのも、想ったのもすべて志帆ちゃんだけど」 「でも、僕が一言でもいなくならないって、好きだって言っていれば」 「変わらなかった。もしくは酷くなっていたかも」  すべてお見通しのミナミ先輩が言うならきっとそうなのかもしれない。 でも、後悔は僕につきまとう。 「それに、言ったとしてもそれは嘘」 「嘘じゃないですよ」 「嘘ね。貴方は志帆ちゃんをただの幼馴染みとしてしか見ていなかった」 「それは、そうかもしれないけど」 「そうでしかないのよ」  先輩は、そう断言する。 それ以外の言葉を許さないとでも言う風に。 「それに、志帆を成仏させる必要なんて」 「貴方は一生頭痛と志帆ちゃんの想いに縛られていたけど、それでもいいの?」 「それは」 「最高までとは言わない最善の結末がこれなの」 「嘘だ」 「貴方がそう信じたいならそれでもいいよ」 「僕も自分に嘘をつきたいです」 「嘘をつく人は嫌い。だから、」  先輩はそこで一旦、区切った。 その後に続く言葉を考えなさいとでも言う風に。 「わたしは貴方が嫌い。  ──貴方は?」 「僕も貴女が嫌いです」  ミナミ先輩はきっと正しい。 でも、その正しさは、とても残酷だ。 嘘も残酷かもしれないけど。 正しさよりも優しい。  そうして僕の幼馴染みは二度死んだ。 僕が知る頃にはすべて終わっていた話。 喜劇なのか悲劇なのか。 嘘なのか、本当なのか。 僕は知るよしもないし、知りたくもない。 苦々しい、青春とも呼べない記憶。
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