夜と泣き声

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いまだ泣き続ける彼の右手からカッターをお預かりして、左手の手当をする。そんなに深く切れてはいない。たぶん、初めてだ。 手当をし終わっても彼はぐすぐすと鼻を鳴らしながら半べそをかいている。月明かりで見える顔は、目が腫れていた。鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっている。ポケットからハンカチを出して拭いてやる。 「……痛かったね。でも大丈夫、大丈夫だよ」 僕がそう言って抱きしめると、彼はまた大声で泣き始めた。 「……つらかった、つらかったん、です」 小さくてほそい腕が、僕の背中に回される。 涙は悲しみの汁だ、とは、どの本で読んだのだったか。泣いて少しでも楽になるなら、いくらでもないて欲しいと思った。
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