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こんこんこん、とノックをして、部屋の中に入らせてもらう。
すると、部屋の真ん中にぺたりと座り込む、小さな背中が見えた。小学校高学年くらい……だろうか。
弱々しい泣き声を上げている彼は、僕が部屋に入ったことさえ気づいていないようだ。
近寄ってみると、右手にカッター。左手からは血がでている。嫌な予想が的中したものだ。救急箱、持ってきてよかったなぁ。
僕は目線を合わせるようにしゃがんだ。
この子、名前はなんだろう。えっと、職員さんが呼んでいた記憶がある。確か……
「そうだ、忍くんだ。」
「……ひぇ、ふぇ、え?」
「あ、ごめん。僕は奏縁。君のお隣さん。」
「お、おとなり、さん?」
「……そう。…大丈夫。僕もΩだよ。つらかったね。」
そう伝えると、彼はまた泣き出してしまった。大粒の涙がボロボロ零れて、左手から流れる血液とともにフローリングを濡らしている。絨毯を敷く前で良かったと思う。
いまだ泣き続ける彼の右手からカッターをお預かりして、左手の手当をする。そんなに深く切れてはいない。たぶん、初めてだ。
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