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 ジャー、ゴボゴボゴボ、ガチャ。トイレの個室から人が出てくる。 「そら『藤波竜之介』だべ」 「あ、美貴さん」 「美貴はん…」 「おめえさんらの話、個室の中で聴いてたけんど、オラも(いも)っこが『ぼぐ』っつったって気にすっごどはねえべって思っているだよ」 「美貴さんも、自分の一人称のことで大分苦労したって聞いているけど…」 「んだな…。オラも、自分のごどさ『オラ』なんで言うモンだがら、『田舎モン』っつって馬鹿にされでいだだがらな。んだどもよ、宮澤賢治の作品にしても、全部標準語で書かれてあっだら日本文学史には残っていながったかもしんねえ」 「そう言えば何かの本で読んだことやけど、平安時代の京ことばはズーズー弁に似たモンやったらしいで」 「へえ…それは知らなかった。言葉って、時代によってどんどん変わっていくんだね」 「美和、おめえの(いも)っこ、自分のごどさ『ぼぐ』っつってるけんど、漫画だのアニメだのには『ボーイッシュキャラ』だの『性同一性障害キャラ』だのは、それごそ山ほど出てくるだ。さっきオラの話した『うる星やつら』の藤波竜之介もそうだけんど、手塚治虫の作品なんで、『性同一性障害キャラ』の宝庫みてえなもんだ。『リボンの騎士』なんで、その代表だけんどな。他の手塚の作品にも、『女子(おなご)みてえな男』だの『男みてえな女子(おなご)」だのが、山ほど登場するだよ。づまり、手塚治虫っつう漫画家は『漫画の神様』と同時に『性同一性障害の守護聖人』つっでもええ人物だべ。『性同一性障害の守護聖人』が見守っでるかもしんねえがら、(いも)っこが自分のごどさ『ぼぐ』っつっても、胸こさ張っで生ぎでいっだらええ」 「美貴さんも、そう言ってくれてありがとう。返す返すも、私も妹が自分のことを『ぼく』って言っても、もう口うるさく注意しないことにする」 「なあ、美和はん、美貴はん、よう考えてみると、わてらもおかしな一人称を使(つこ)うてるなあ。わては自分のことを『私』なんて言わずに、頑なに『わて』なんて言うてるさかい」 「オラも自分のごどさ、『ワダス』なんで絶対に言わねえがらな。オラはどんなに田舎モン呼ばわりされでも、自分のごどさ『オラ』っで言いてえだ」 「まあ、私も自分のことを…」
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