海辺のポオ

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 暑くて推理小説がはかどらねえ。  そんなわけで俺は気分転換に海に向かっている。  大丈夫さ、しめきりはそれほど遠くはない。たぶん。  電車の中は夏休みの子供たちが多かった。中にはあきらかに海に行くのがわかるのがいる。  俺は子供たちの会話を耳にした。 「兄ちゃん、水着は?」 と、手ぶらの兄に、妹がたずねる。 「下にもう着ている」 「じゃあ、帰るとき水着はどうするのよ」 「どっかでなんかの袋に入れるさ」 「なんかの袋」 とあきれたように言う。しっかり者の妹と、ずぼらな兄。よくいる組み合わせだ。  また別の子供が、興味津々で俺のことを見ている。  メガネをかけた、頭のよさそうな子だ。いや、頭がいいふりを周りに強いられているような。  ときおり、ちょっと抜けたような表情になるのでわかる。 「宇野信光先生ですよね」 とその少女は言った。 「『イカロスの殺人』の」
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