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「い、いや、いいって!」 「店員さんにまで「誘われたら」可哀想なので」 「誘われないよ!」 「分からないじゃないですか。 七海さん、男に興味なんてない僕から見ても美味しそうですもん」 「……………っっ」  掴んだ腕を離してくれない和彦は、絶対にわざとだってくらい至近距離まで顔を寄せてきて、俺を激しく狼狽させた。  こいつ…自分の見た目を分かってる。  美味しそう、なんて耳元で囁かれたら、もし俺が女の子だったら失神もんだよ。  チビだし、男にお持ち帰りされるってバレてるし、これは確実に和彦に揶揄われてるな…俺。 「飲み物頼んできますけど、何か要りますか?」 「おー、サンキュー! じゃあ俺は梅ロック!」 「俺は麦の水割りー」 「俺はビール〜」 「分かりました。 彼女達の分はまた後でいいですよね。 行ってきます」  俺の腕を掴んだままそう言って個室を出た和彦が、ふと振り返ってくる。 「七海さん、みんなの注文内容覚えました?」 「えっ、和彦聞いてたんじゃ…」 「覚えてないんですか?」 「覚えてないよ!」 「しょうがないですねぇ。 僕は覚えてるから大丈夫です」 「じゃあいちいち俺に聞かなくても…っ」  和彦の力が強くて、握られた腕が痛かった。  なんでこんなに強く握んのって、そっちに気を取られてたから注文内容なんて耳に入らなかったんだ。  それなのに和彦は、力を込めてるのをちゃんと自覚してそうな笑顔を向けてくる。  柔和で優しげな見た目とは違う、ちょっとだけ意地悪な部分を見てしまって俺の狼狽は加速した。 「……はい、個室番号は六です。 よろしくお願いします」  忙しそうな店員さんを捕まえた和彦は、難なく男連中のメニューを注文し、また俺の腕を掴んでくる。  週末の居酒屋の店内はカウンターと連なった奥のキッチンもかなり慌ただしそうで、ここまでやって来て注文するのは逆に迷惑だったかもしれないと、掴まれた腕を外そうとしながら思った。  ──痛いから離してほしいんだけどな、……もう。 「七海さん、このまま個室戻らないで抜けちゃいます?」 「えぇっ? いや、それはダメだ。 どんだけ面倒でも一次会はちゃんと最後まで居てあげないと、山本の面目が立たない。 てか腕離して」 「………おかしいな。 聞いてた話と違う」 「何? なんて?」 「いえ、こっちの話です」  俺から視線を外した和彦が何かをボソッと呟いてたけど、周囲の雑音にかき消されて聞こえなかった。  そのまま無言で腕を引かれて個室へと戻ると、女の子達も会議から戻ってきていた。   「七海、和彦、王様ゲームやるぞぉ!」  例の割り箸を握った山本からニコニコで出迎えられて、さっきの席に着席しつつ俺は笑ってしまう。  だからそんなギラギラしてたら女の子達引いちゃうってば。 「……すごい張り切ってる…」 「山本さん、でしたっけ? 今日はガチってるって仰ってましたもんね」 「女の子達はみんな和彦狙いみたいだけどな」  個室の扉を開けた瞬間の、女の子達の視線が和彦に集中してたのを思い出す。  ひとり勝ちだ!って嬉しそうだった山本が気の毒に思えるくらい、和彦の方が「ひとり勝ち」だ。  ただ、その和彦はお目当ての子が居ないらしいけど。 「参ったな…すぐにでも抜けたいです。 七海さんと」  ヒソヒソ声で耳打ちしてくる、和彦の吐息が直接耳に触れてくすぐったい。  なんか…距離感近い人だ。  離してって言ってるのに腕を離してくれなかったり、やたらと俺と抜け出したいと言ってきたり、誘ってるわけじゃなさそうなのに妙にグイグイくるな。 「抜けるのはいいけど、ここ出て飲み直すとかはナシな。 俺これから約束あるんだ」 「……誰とですか」 「んっ? んー…。 と、友達」 「嘘ですね」 「嘘じゃないよっ。 友達は友達」 「……セックス込みの?」 「なっっ…!」 「七海さん。 僕がその相手しますよ」 「はっ!?」  驚きの発言と共に、テーブルの下でみんなに見えないように腿に乗せていた手のひらをきゅっと握られた。  ど、どうしよう。  誘われてるわけじゃないとたかを括ってたのに…これは明らかに万が一の誘いを受けてる、よな…?
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