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第三話 男とハーレム荘の住人たち
次の日、みんなの食事を朝早くから作る。
今度は捨てられないようにしなきゃ。
目覚まし時計を借りた、時間より先に目が覚めた。夜、風呂でひげをそり落した、久しぶりの鬚のない顔を見て驚いている自分がいた。鏡をのぞく、よし、がんばるぞ!
「おはよう、ひげ剃ったんだへー」
かわいい、うー天使だ。
「何?」
「いや、何でもない」
学生服がまぶしい、紺のハイソックス、有難いです。
エプロンは、洗濯の中から発掘、使ってもいいとお許しが出たので腰に巻きつけた、これも赤にフリルがいっぱいだが、今だけだ。
「へー凄い、厚焼き玉子?」
「簡単だろ?」
「焦がしちゃうんだ」
「教えるからやってみなよ」
俺流、卵三個に、卵の殻半分の水、砂糖大匙一に塩小さじ四分の一
「白身を切るように持ち上げながら溶きほぐす」
「これでいい?」
「もっと混ぜていいぞ」
卵焼き用の四角いフライパンに油を入れ、火をつけて余分な分をふき取る。
「入れるぞ」
「まだ熱くないのにいいの?」
「いいんだ、ただ全部入れない、三分の一だけな」
ジューッ音がする
下が白く色が変わり始めたらぐちゃぐちゃで構わないから前の方に寄せる
「そしたら?」
半分入れて、今度は向こう側に寄せた物を手前にひっくり返して、また油をひく。
「ぐちゃぐちゃ」
かまわない、こっち側、見てて、盛り上がって来るよ。
「ア~ほんと」
卵が膨らんでくる。
「そしたら向こう側にクルン」
「アー又ダメ」
「でも平気、そのまま四角く寄せて、最後の液を入れて、そしたら少し触らない」
「また膨れてきた」
「はい返して」
え、あーまたー、綺麗に返らない―。
後ろから手をまわして、彼女の手を取っていた。
「今度はフライ返しで、向こう側に送って、手首を使ってぽん、ほら」
最初から使えばよかったと笑っている。
仕上げだけでいいだろうと、フライパンを皿の上に返した。
「すごい、できた」
あっ、手を握っていたそれも後ろから、あわてて手を放した。
「あ、ごめん」
「いえ、ありがとう」
恥ずかしそうに言う、千夏ちゃんの耳から首が真っ赤になった。うわー天使降臨!
「もう一回作ってみなよ」
「うん」てれてる、かわいいな。
卵焼きにシラス大根につけものと味噌汁、十分だと言ってくれた。教えてくれた、母ちゃんに感謝!それでも冷蔵庫にあった納豆とかをパックごとテーブルに出すあたり、すごいよな。これも出してと味付き海苔、ふりかけも出した。
みんなが起きてくる。
「よ、おは」
裏口から男性、でかい、それもいい体をした人が入ってきた。何もんだ?
「ひげ剃ったか、おー、いい男だな、どうだ、なれたか」
「は、はい」
彼は隣の金田謙(かねだけん)さん、金(きん)ちゃんと呼ばれている、彼は俺が倒れた時に運んでくれて、着替えやおむつの交換をしてくれたそうだ。
ありがとうございました!俺は頭を深々と下げた、感謝です!というと笑われた。
四角い顔の優しい目が余計に垂れ下がった。
「いいさ、それよりどうすんだ」
「決定!」
「そうかよかったな」
「やっと解放されるー」
彼はこうしてたまに朝飯を食いに来るらしい。
あちこちの部屋から目覚しの音が聞こえ始めた。
そして昨日の夜いなかった人の紹介。
上田恵さん、OL、デパート勤務、彼氏がいてたまに朝帰りなのだと言う。(残念、彼氏持ちか)
そして、ここで一番長い
「木村サエ、四十よわかんない事があったら聞いて、ようこそ住田荘へ」
トイレに新聞持って入っていた人、小学校の先生だそうだ。
大きなテーブルから人がいなくなる。出かけるとき、カリンさんに声をかけていくように言われた。
れんちゃんがエプロンを持って来た、つけてやった。
「はい、どうぞ、れんちゃんは、何を手伝ってくれるのかな?」
「お掃除」
起きて来た時、俺を見て、誰といって、千夏ちゃんの後ろに隠れていたのに、もう慣れたんだな。
手を伸ばしてきた、その先にはふきんがあったそれを渡すとテーブルの上によじ登り拭いていく。
まっいいよな。靴下はいてるし。
それが終わると何処からか紙とクレヨンを持ってきて絵を書き始めた。
「お掃除をしました、よくできました」
「じゃあ、俺からは花丸を上げましょう」
赤いクレヨンで花丸をかくとワーッと言ってうれしそうにそれを上げた。
「さてれんちゃん、お出かけするよ」
「どこいくの?」
「バスに乗って、役所に行くよ」
「ふーん、カリンに言わなきゃ」
そうだね、水筒とかあるかな?あちこちぱたぱた開けて見た。なんかここもごっちゃで、片付けが先だな。
降りてきたカリンさん、遅くまで仕事だったのか眠そう。
「出かけるか、水筒は、吊戸棚の中、後帽子とハンカチ、タオルの方がいいか」
Tシャツにショートパンツ、花柄のソックス姿にサンダルを履かせた。男の子が女の子になった。
買い物も頼まれた、バス停前にある店でお客様用に水羊羹だそうだ。五千円、そこからバス代とか払うように言われ有難くお借りした。カリンさんが麦わら帽子をポンとれんちゃんの頭に乗せた、そのゴムを顎にかけた。
「おっ、かわいいね、それじゃあ行ってきます、お昼できてます、お願いします」
「あいよ、いっといで」
「いってきます」
役場に行き、住所変更、銀行で通帳を作り、ハローワークへ
「お金がもらえるんですか?」
よかった、三か月分の給料が、支度金としてもらうことが出来る。手続きをした。書き物ばっかりで、怜ちゃんを一人ベンチに座らせてばかり。
つまらなさそうなれんちゃんを連れて、図書館へそこで料理の基本の本を手に取り児童書のあるコーナーへ連れて行った。結構、子供がいる、畳敷きの上には親子で来ている子たちもいる。サンダルを脱ぎ捨てて、上がると一目散に本の前へ
「ねえ、何でもいいの?」
「しー、静かにね、みんなお勉強してるんだ」
いっぱいある絵本に興味津々、それを取り出しては足元に重ねていく。
「れんちゃん、また来るから今日は二つにしませんか?」
「えー」
「ほら、みんなは時間があるから読んでるけど、こんなに持ってきてないよ」
しぶしぶ片づけ、何冊か広げた。「うーん」なやんでる、それを覗き込むもっと小さな子が、これ面白いよというとれんちゃんはニコッと笑った。
「うん、きめた!これとこれがいい」
ぐりとぐらか、なつかしいな、こっちはねこのおうさま、これ二つに決定!
カードを作り本を借りた、身分証明の提示、運転免許書、あってよかった。返却は一か月だが又すぐに来る。本を入れた、借りてきたエコバッグを持つという。うれしそうな顔、満面の笑みってこういう顔なんだろうな
「お腹すいたー」
俺の手を引っ張る。
「そうだな、お昼にしようか」
図書館の二階ロビー、ここは飲食ができる、涼しいのと大きな水槽に魚がいるから小さい子も多い。前に役所に来たときにここで飯を食べた。その時は会社の仕事の合間を縫って、そう、ちょっとしたずる休憩、外回りのついでに時間をつぶしたのだった。でも、今は状況が違う。なんか親にでもなったみたい、れんちゃんはいい子だし。椅子の上に上るとべったりと水槽にくっついて魚を見ている。中にはグッピーだろうか小さな魚がいっぱい泳いでいる。ここがいい、とそこに座った。
「はいどうぞ」
「にぎにぎ」
おにぎりと、朝の卵焼きを包んで持ってきた。
子供といるのも楽しいな。
帰りのバスの中でコックリコックリもうつくよ、抱っこしておりた。
「ただいま」
「お帰り、寝てる?」
「はい、このまま寝かせます」
上がろうとしたところにカリンさんがスリッパを出してくれた。カバンをのぞき込む。
図書館行ってたの?
涼むには最高ですよね。
そういう手があるな、明日にでも行くか・・・
ふと俺から目線がそれた、後ろから声がした。
「おはようございます、先生、原稿、お、男がいる!」
メガネをかけたポロシャツ姿の男性、えらい男前だな、出版社の担当者なのだそうだ。
「初めまして住田です」
「新しい管理人」
管理人さんですか、それでは改めて、神沼と申しますよろしくお願いします。と名刺をいただいた。
「どうぞ、お茶入れます」
ここの玄関は広く、応接セットも置いてあって、エアコンもあるからかこういうお客の時はいいな、彼はそこへ座ったので俺はエアコンのスイッチを入れ、れんちゃんを部屋に連れて行った。
「お構いなく、先生できてますか?」
「はい、はい、今もって来る」
「逃げないでくださいよ」
「だからできてるっての」
二階に上がるカリンさん。お茶とさっき買ってきた羊羹を出した。
「すみません」
「暑いのに大変ですね」
やっと落ち着けると彼は言った。今まではみんなで持ち回りなのだと言って何かにつけて、伸ばされて大変だったのだと言う。
「その手があったな」
二階から降りて来たカリンさん
「もう通用しませんよ」
わかってるわよといって出した茶封筒、中から出したのは原稿かな?ぱらぱらとみて袋に入れた。
「・・・はい確かに、それでは次も遅れずにお願いしますね」
「はい、はい、ありがとさん」
「では失礼します」
と立ち上がろうとした。
「ゆっくりしていけば」
「少し涼んでいこうかな」
とまた座りなおした。
「いつもそうしてるくせに」
「ハハハ、こんな早く貰えると思わなかったから」
すげ、仲良さそ
「じゃあ、俺、お茶もってくる」
カリンさんも腰かけ、話しをし始めた。
どんなマンガ何だろ、今度聞いてみよ。
「さて、洗濯機まわすか」
なんか減らないよな?
そう思いながら、二台を回す。女なんだから片付けろよな。あ、でも長くいるっていう事は、こんなこと千夏ちゃんの親はしてくれていたからだろうな。すごいな、でもなんでれんちゃん。ちょっと不思議に思う。
キッチンへ行くと、洗い物をするカリンさん
「すみません」
「なにこれぐらいするわよ」
「帰られたんですか?」
「うん、あんたさ、漫画描いたことある?」
「いえ、絵はヘタで、センスのかけらもありません」
あのね、お願いがあるんだ。
彼女は今、週刊誌や、隔週の雑誌に載せてもらっているのだそうだ。今度はそれだけではなくて、単行本として大がかりなものに挑戦してみてほしいと言われたのだそうだ。
すごい!ただそうなるといろんなことが大変になる、今までの仕事にプラスしてやって行かなければならない。その時に、アシスタントを頼むわけにはいかなくなるのだと言う。
「それじゃあ、その手伝いをしろと」
「うん、素人でもできる事だけなんだ、頼めるかな」
「んー、でも俺、今まだ二日目だし」
今すぐにではない、早くても来月ぐらいからなのだと言う。それなら何とか
「ちゃんと手間賃は払うよ」
「お金いただけるんですか?」
「そりゃーだすわよ」
とりあえず、考えさせてくれと言った、まだ仕事も把握できないからと。
「いいよ、それじゃあ、仕事するわ」
「終わりじゃないんですか?」
「うん、まだある、貧乏暇なしってね」
マンガ、どんなのかいてるんですか?と聞いた。
「あ、んー、いいけど、引くよ?」
「えっ?まさかホラー」
「恐いの嫌い?」
「苦手です」
そうではないと言う、まあ、暇になったら、いつでも来ていいと言われた。
「どんなの書いてるのかな?」
スマホが鳴った。メール、千夏ちゃんから、今晩の買い物の時に、洗剤を買ってきてくれと書いてある、特売の文字、洗剤あんなにあるのに買うか?
「エー、もう行かなきゃ、れんちゃん、いいや、カリンさーん」
新聞も見てないのに、特売なんてどこでわかるのかな?
あ、本当だ、タイムサービス、おひとり様二点限りか、ん?これも安くねえか?
「兄ちゃんそれはやめた方がいいぞ」
「何でですか?」
声をかけてくれたご婦人、雨ざらしになった物で、中はしけって固くなっている。ふーん、ありがとうございます。
「あんた昨日から、れんちゃんつれて歩いてるね、まさか、お父さんかい?」
「いえ、新しく入った管理人です、よろしくお願いします」
「そうかい、私は斜め向かいの山田です、よろしくね、金ちゃんがそんなこと言ってたからさ、まさかと思ったんだけどね」
「そうでしたか、これからよろしくお願いします」
彼女とはいろんな話をした。安い店や、床屋、切ってやろうかと言われたが遠慮した。今は怜ちゃんからもらったゴムで結わえてある。商店街の話、そして彼女たちの話、荷物を持ってあげて家の前で話し込んだ。携帯のタイマーが時間を知らせる。
「あ、こんな時間」
「長話になっちまったね」
「また聞かせてください」
結局、洗剤はかわなかった。夜帰ってきて見せたらいいや。
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