第四話 虫歯とスーツと怜ちゃんの過去

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第四話 虫歯とスーツと怜ちゃんの過去

 ただいまー「ヨッシー」飛び込んできたれんちゃん どうしたの、泣いてるの?涙をぬぐってやるとしゃくりあげるように泣き出した。 「ハア、帰ってきた、もう、どこ行ったんだって泣いちゃってさ」 「どこにも行かないよ、買い物に行ってたんだ」 「れんも行く!」 「うん、それじゃあ、明日からね」  抱きしめてやると、小さい体でおれのからだをぎゅっと抱きしめた。もう、かわいすぎです。  ご飯支度、またあのエプロンを持ってきて、つけてあげた。 「ただいま、へーかわいいじゃん、買ってもらったの?」 「うん」 「お帰りなさい、ゆかりさんですよね、あの、お願いが?」 彼女は歯科衛生士、彼女に歯を見てもらった。 「ハハハ、悪の元凶ってわけね、あー、これは、虫歯だわ、早く行った方がいいわね、今いたくないんでしょ」 「はひ、れも、今、お金なくて」 パチンと手袋を外しゴミ箱へ入れた。 「それくらい貸してあげるわよ、保険証は?」 つくってきた。 それじゃあ、これと名刺をよこし、予約入れておくから明日来てと言われた。時間はラインで教えてくれると言う。  西山ゆかり、二十七才、歯科衛生士。短大からここにいるそうだ。出身は新潟、両親とお姉さんがいる。彼氏はまだいいと言う、お姉さん夫婦には早くから子供ができているから自分はいいのだというが結構患者さんから声をかけてもらっているらしい。かわいいもんなモテるよな。  それにいい人だ、俺みたいなのに、金を貸してくれるなんてありがたいな。  何かここに来てから付いているなと思う、やっぱり彼女は俺にとって天使だ。 「ただいま、何作ってんの?」 背中を叩かれ振り向いた、天使! 「おワー、お、お帰り」 そんなにおどろなくてもー。 冷蔵庫の中をかたづけるから、煮物を作っている。熱いのに、無理しなくていいと言う。 これは明日の朝の分だからと言った。 冷蔵庫を開ける。 「ワー、凄い、ねえ、お料理仕事にしてたの?」 今日図書館で本を借りてきた、それを見て作った。 「へえ、凄い、これ、あまり物なんだ」 彼女は着替えて来ると言った。れんちゃんの姿を見てかわいいと言った。  彼女に明日歯医者に行くことを言った。 「それじゃあ、カギ渡すね」 各部屋は鍵が付いている、ほとんど、カリンさんがいるからそんなに気にはしてはいないが、たまに出かける時がある、必ず鍵をかけること、特に食堂のキッチン、ガスの元栓はしっかり締めて外の元栓も閉めていくように言われた。 「ねえ、前の会社って何してたの?」 ゆかりさんも来て座りながら聞いてきた。 高卒で就職した物流関係、一年宅急便の配達業務、二年間大型のトラックや、トレーラーなんかのり回しいろんな資格もある、二十一歳になって、花の営業に行くこととなった。今年四月、大卒で入社した後輩、役員の息子、でも年は同い年、そいつにはめられ首になった。たぶんリストラの対象者を探していたのだと思うと話した。 「えー、そんな、おかしいじゃん」 「でもさ、俺、首になってよかったと思ってる、今日図書館に行って新聞を見たんだそしたら、どうも務めていた会社、危ないみたいなんだ」 「まあいいじゃん、ここ、いい仕事場でしょ?」 「そうですね」 「こういうのハーレムって言うんだよね」 「ブッ、千夏ちゃんそれは違うだろ」 「そうなの、女ばっかりに男一人ってそうなんじゃないの?」 確かに、住んでいる人はきれいな人ばかりだけど。確かイスラム教で女性ばかりが済んでいる居住区のことを言うんだと思うと言った。 「なーんだ、でも悪くはないよね」 「まあ、そうですね」 「ただいまー」 みんなが帰り始めた。 「ふーん、そりゃそうよね、残ったら、その分片付けるのも大変だもんね」 「はい、だから、いらないときは連絡ください、できるだけ早い時間にお願いできますか?」 食事の無駄を省くため連絡がほしいと相談 「いいんじゃない?」 「うん、いいよ」 それと、もう一つ 「なに?」 洗濯もの、できるだけ早く持って行ってほしいのと下着のことを話した。 「そうか、ねえ、カリン、干すだけ頼めない?」 「えー、だってー」 洗うのだけは俺がやるといった。早く乾燥機が治ればいいけど、部品が壊れているから、修理しないといけない。 「乾燥機か、下着は、ダメになるのもあるんだよな」 「でも今までも乾燥機でママさんしてくれてましたよ、寒い日なんかわ」 「ねえ、その修理、直りそう」 「部品だけ何で取り寄せが出来れば」 「それ麻美ちゃんできない」 メーカーや、商品の番号など教えてくれと言う、パソコンで注文してくれると言う。 まだ今は暑いから、できるだけ干した方がいい。 「やっぱりカリンに任せる」 「れんもするー」 「そうね、怜にもお願いするわ」 管理人としてオーナーに報告、洗剤はかわなかった、あるのがなくなってからでいいと判断、どこにあるのといって、洗濯の山になった後ろの棚、忘れてたという天使、ほしいのは、漂白剤と、床を拭く洗剤、それは明日買ってきてくださいと言われ、俺は、勝手に片づけさせてもらうことを話した。  そして、なんだかんだでやっと二週間が経とうとしていた。 自分で自分をほめたくなる、なんか充実してるよな。 「それじゃあお願いします」 「うん、今日で最後だもんね」 「怜、今日は泣かないでよ」 「うん、怖くないもん」 「じゃあいってきます」 「いってらっしゃい」 ゆかりさんの歯医者に行って治療開始した時。俺はまだ、床屋にも行ってなくて、自分で髪を切った、カリンさんに少し整えてもらっただけなのだが。 「あんた、モテたでしょ」 「ふええ(いいえ)」 「カリンが言ってたけどいい男よね、もったいないな」 「ゆかりさん彼氏ですか?」職場の子が聞く「管理人なの」 「へー、イケメン、彼女いないの?」「はひ(はい)」 俺は一躍スターダムに押し上げられた。 次に行く日から、少し髪を整えてみた。 「俺、そんなにいけてるかな?」 「何鏡見てんのよ、そんなに変わんないわよ」 「でも俺、モテるのかな、結構女性が寄って来るんですよね」 「ハア、あんたねえ、まあいいか、あんまり有頂天にならないでね」 「はい、ご忠告有難うございます」 鏡をのぞきながら言った。 「ハア、怜、パパ。って呼んでいいからね」 「ヨッシー、パパなの?」 「違うよ、又カリンさん変なの教えないでくださいよ」 「時間じゃないの」 「あー、行ってきます、行くよ、怜ちゃん」  怜ちゃんも見てもらった、そして名前も漢字で書くことを知った。レイと書いてれんと読む、(レイちゃんでもよかったのに)一本だけ凄い虫歯で、大人の歯が生える時に大変になるという事で、治療を始めたのだが、まあ、俺が抱っこしてやっても泣く、泣く、先生も疲れ切っていた。 「こんにちは」 「こんにちは、診察券をお願いします」 「はい」と怜ちゃんが出した。 「怜ちゃんこんにちは」 「お願いします」元気にあいさつ。 お金はゆかりさんが立て替えてくれた、最初だけ、三千円ほどいったがあとは千四、五百円で済む。 「はい、終わりました、ゆすいでね、そしたら怜ちゃんを抱っこしてもらいましょうか」 「ありがとうございました、怜、おいで」 他の衛生士さんに遊んでもらっていた彼女が椅子にゴソゴソと登ってきた、それを抱っこした。 「はい、たおしますね」 きゃっきゃとさわぐ 「こら、静かに」 「はい、いい子ね、アーんしましょうか、はいアーん」 「ア~」 「大丈夫そうね、ちょっと削るね、マウスして」 「はい、お口あーんしようか」 口が閉じないようにするものをあてて、あのキ―――ンと言う機械が鳴り始める、俺の腕をぎゅっとつかむ 「えらいなー、すぐおわるからな」 「すぐおわるからね」 キュゥイン、キュゥインと何回か押し当てるようにした。 「はい、終わり、偉いわね」 「はい外しますね、お口クチュクチュできるかな」 うんと頷いた、俺がとった紙コップを口に含みべーっと言いながらうがい 「エライ、エライ」 なでるとうれしそうな顔。 「それではこれで終わりです、またなにかありましたらお電話ください」 ありがとうございましたというと呼び止められた。 「これ」手紙? 「ワー、みきちゃん抜け駆け、住田さん、ラインしてます」 「いえ」「じゃあメールアド教えて」 「こらー、仕事中、はい、これはもらって帰りな、まったく」 ゆかりさんが来て手紙だけ俺によこすと手であっち行けとされた。 「ゆかりちゃん怖ーい」 「あんたらねえ」 ありがとうございましたと俺たちは外へ出ようとした。 「また来てねー」 スタッフさんがみんなで手を振ってくれた、フレンドリーなんだかどうなんだか? 怜ちゃんの手をつないで帰る。 「なにもらったの?」 「ん、お手紙」 「ラブレター?」 そんなの知ってるんだ? 「うん、凄いね、モテモテだね」 「そうかな〈はじめてもらった、帰ってからのお楽しみ〉」 「こんにちは」 「あら、怜ちゃんこんにちは」  近所のおばちゃん連中が集まって話をしていた、住田君、ちょっと、ちょっとと呼ばれその中に、何かあったのか聞いた。 「昨日変なのが出たんですって」 変出者ですか? 「女みたいよ」 女?泥棒ですか? 「それが解らないのよ」「何でもこの辺うろうろしているみたいで」 俺は握っている手の先を見た、もしかして 「それ、若い人なのかな?」「さあ、それもね、うわさでしかないかもしれないし」 「気を付けましょう、俺みたいのでも何かの力になるかもしれませんから、大声で呼んでください」「あら―、たのもしい、悪いわね」「どう、住田君も慣れた?」返事をしておいたこれ以上捕まってると長いから、それじゃあと言って怜を引っ張って歩き出した。 「今日は、卵の特売よ」 後ろから声がして振り返って返事をいておいた。 「お買いもの?」 「うん、ちょっと行こうか、お金貰わないとね」  玄関わきの応接セットに横になってるかりんさん。 「カリン、ただいま」 お帰りと横眼で見た。 「ただいま、あの、買い物いってきます」 レンちゃんココに座っててと俺は中に入ってお金と、冷蔵庫に貼ってあるメモをはがし準備した。 「早くない?」キッチンを覗くかりんさん。 「早く行かないと無くなるんで」 「たまごか」 「はい」 「私も行く!」  三人でスーパーへ 「へえー、変なのがねえ」 「それで俺びびって来たんですけど、それもしかして怜の」 「あるかな?」 「二年ですよね」 「んー、みんなが帰ってからだな」 「そうですね」 「すぱげっち、すぱげっち」 「今日は、ナポリタン?」 「はい、歯医者でいい子にしてたらって約束だったんで」 「そう、よかったね」 「サエちゃんおかえり、ちょっちいいかな」 カリンさんはサエさんに昼の話をしていた。 「でも、何で今頃」「んー」「なに難しい話してるの?」 「恵、お帰り、あのさ」「えー、まじ?」 「まだわかんないけど」 食事が終わり、千夏ちゃんが怜ちゃんをお風呂に連れて行った。その間に六人が話をはじめ、俺はその後ろで片づけをしていた。 それって、迎えに来たのかな?ありえるかもね。 男でもできたのかな?それならなおさら、いらなでしょー。 んー、どうする? 「ねえヨッシー、あんた怜の事しっかりみてて」 はいと返事をした。 「そうそう連れ去られたりしたら千夏がまた落ち込むもの」 「そうだね、それだけは避けなきゃ」 「あの?」怜ちゃんは、戸籍上どうなっているんですか? 保護者がいない、そのため、彼女は、一応、そのまま、住所だけここにしたのだと言う。 「でも、向井の姓は?」 怜の母親、向井睦子は、たまたま同じ苗字だったらしい、それはサエさんや真理さんが調べていた。 「たまたまか、あの、千夏ちゃんのお父さんて、勤めてたんじゃないんですか?」 「そういえば」「そうだ、会社」「調べてないよね」「あり得るか?」「どうする?」「どうするって」 みんなの視線が俺に集まる。 「俺?」 自分で自分を指さした。 「いいんすか、こんなのもらっちゃって」  今俺は真理さんの部屋に上がらせてもらっている。なぜかそこにある男性のスーツ、忘れものだというが・・・?普通上だけとかじゃねえ、下もあるなんて、少し短いか? 「いいの、いいの」 「すごいマリちゃんの元彼金持ち?」 「金、あんな裏金しまい込んでるようなせこい奴、こっちから願いさげよ」 「はーい、ワイシャツね」 「おー、いいじゃん」 「どうよ、これで」 床屋に行って、小ぎれいにして、ブランド物のスーツに真っ白いワイシャツ。 久しぶりの恰好をした。 いいねーという、その場で身ぐるみはがされ、ズボンだけどっかに持っていかれた。 「あ、靴、どうしよう」 玄関まで行って残念な皮靴、せっかくのブランドスーツが・・・ 「買う?」「買わなきゃね」 後ろからのぞくお姉さんたち、明日、怜はカリンさんに頼んで出かけるぞという。  真理さんと恵さんのデパートに出かけた。 スーツだけ持って、いつもの格好に、よれよれの靴を履いてついてきた。 「仕事はいいんですか?」「やすみもらった」「いいの、いいの、これは?」 キャー、といってあつまってきた店員、恵さんに彼氏を変えたのかと言っている「まあね」とあっさり言う彼女、まじかよ。 独身、どこの出身、年は、次々と質問されうんざり、ネクタイ一本買うのに店員が集まる。靴売り場へ行くというのについてくる人たち。「いいんですか?」 「いいの、いいの、男に飢えてるから、見たいのよ」 「俺、そんなにいいかな」 「まあ中の上にしてあげるは」 真理さんに笑われながらブランド店の並ぶ階へ、そこの靴を手にした。 ウソ、高いでしょ。 「そうね、こっちの方がいいかしら」 一、十、百、千、万、いや、いや、これはねえだろう。 「いくらなんでも高いです」 「そう?でもこれぐらいの方がいいんじゃないの」 「俺、払えませんて」 「いいわよ、あんたに払えなんて言わないわよ、すみませーん」 結局、十万近い金額もする靴を買った、社員割引で安くなるらしいが、古い靴は処分これで何もかも古いものは無くなった。 そこで着替え、店員さんにちゃんとしてもらった。 「おーいいじゃん」 「なかなかー」 鏡の中の俺、ズボンがいつの間にかちゃんとしたサイズ、ベルトまで買ってもらっちゃった。 俺一生の宝物にします。 「それじゃあ、行くわよ、いいわね、段取り通り行くからね」 そのまま、千夏ちゃんのお父さんが務めていた会社へ向かった。 俺は真理さんの上司役、名刺もいまの上司の物、名前を変え作ったという、いつのまに。 ここの会社とは、つながりがあるそうで、パソコンさえ見せてもらうことが出来れば、二人で、すぐに探せるそうだ。 「それではよろしくお願いいたします」「お願いします」 中に侵入、二人はパソコンの前に、俺も席に着いた。 隣の真理さんが、手を伸ばす。形だけでもやっているそぶりをしてと。 数分後「あった」「よし、帰るわよ」 お礼を言い、またよろしくお願いしますと言われ、その場を後にした。 「はー終わったー」「まだよ」「そうよ、聞かなきゃ」 「また俺ですか?」「そうよ、上脱いで、そう、ワイルドにね」 お昼休みを狙って休憩所、食堂かな人の多いところへ。 「あんた顔はいいんだから、開き直って行けば平気、ほら、いけ!」 押し出された。ちょっと年配の女性グループを見つけて声をかける。 値踏み、上から下までじっと見られてる感、彼女達だけじゃない周りもこそこそと話してるのが聞こえる。かっこいいとか、へへーん、よし、こうなりゃきめっきめでやってやろうじゃねえか。髪をかきあげた。 「すみません、ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」 「は、はいどうぞ」「かっこいい」そーだろー。 「やっぱりあいつ連れてきて正解だろ」「うん、やるね」 へー、そうなんだ、じゃあ、向井さんは飛ばされちゃったんだ。 「そうなのよ、上司と不倫なんかするもんじゃないわよね」 「そうか、ありがと、これでお茶でも買って」 千円札、俺には痛い出費だったけど…仕方がないか。 「ありがとうございます」 女性たちに手を振った。キャーと言われてうれしかった。 「なにウインクなんかしてんのよ」「だってー」 「それで?なんか聞き出せた」「はい」 向井信一、千夏ちゃんのお父さんの上司である関口と言う人が睦子さんの相手、会社は彼女を飛ばした、故郷である静岡の営業所に。彼女は赤ちゃんがお腹の中にいたと言う。 それ以上は、聞き出せなかった。 「上等、じゃあ、その関口にあって聞きだすか」 「また俺ですか?」 「ここからは真理ちゃん、女の武器は使わなきゃね」 「はい、はい、じゃあ行って来る」「向かいでお茶してるね」 彼女は手を振った。俺と恵さんは向かいのカフェで彼女を待った。  レンちゃんの話を聞いた。置き去りにされたのは、ご両親がなくなって、まだ初七日も終わっていないとき。アパートの応接室の椅子の上に寝かされていたのだという。結構大きい、生まれたばかりではなさそうだ。警察に届けようとしていたところに、学校から帰って来た千夏ちゃん。赤ちゃんを見るなり抱きしめ、離さない、自分と何か重ねているのか、みんなは赤ちゃんを取り上げることができなかったのだという。 「ねえ、出てきた」「ふぇー、もしかしてあの男かな」 「すごい、張り切ったわね」 真っ赤な口紅、スーツの襟を大きく開け、これでもかのオーラをふりまく。その後ろで手を振る男性もまたいい男。あれじゃあもてるわな。 こっちに向かいながら歩いてくる、あっかんベーと言いながら。隣で笑う真理さん。 どうだった?あいつ、スケコマシよ!それじゃあ、女いっぱいいるの? 「ハア、そうなんでしょ、まったく、子供なんていらないそうよ」 「それじゃあ」「決まりね」 でもそれを証明できるんですか? 「どうする?」「どうするって、怜の親だもの、もしもの時は、仕方がないでしょ」 だけど、寂しいですね・・・ 「さあ帰りましょ、みんなに聞かないと、それに千夏にもそろそろ話さなきゃ」 「そうね」 気が重いです。  千夏ちゃんはみんなの話をじっと耐えて聞いていた。 怜ちゃんは何かを感じたのかいじめるなとみんなに言った。 「いじめてないんだよ、今、大事なお話をしてるんだ、俺、連れて行きます」 一通り話が済んだのか、彼女は部屋にはいってしまった。風呂に入り、怜ちゃんは部屋の前に立ち尽くした。 「ヨッシー、開かない」 「そうか、仕方ないな、今日は俺と寝ようか」 「うん」 「千夏ちゃん、つらかったら俺、話聞いてやるからな、我慢するなよ、行こうか」 扉越しに声をかけた。 子供の匂い、人のぬくもりなのだろうか、怜ちゃんのお腹をポンポンと叩きながら横に寝る、こうしていると。 「俺も眠くなるんだよな」 怜ちゃんはもう寝息を立てていた。 さて、俺もトイレにいって寝ようかな。 扉を開けた。 「うわー、ど、どうした」 「・・・」 目の前に天使が立っていた。 「寝ちゃったから、キッチンへ行こうか」 俺に抱きついてきた。 ウワー、神様、役得です、いいのでしょうか? 「部屋に行こう」 隣の千夏ちゃんの部屋に入った。抱きつく腕に力がこもるが俺からは手は出せない。 「泣きたかったら我慢しなくていいからな」 「・・・」 女だったらな、このまま押し倒しちゃえばいいんだろうけどな、そんなの出来ないしな。 しちゃいけないし。 はあ、やべ―、深呼吸、深呼吸 「・・・ヨッシーも、いつかでて行っちゃうんだよね?」 やっと言葉が出てきた。 「俺?そうだな、この先の事なんて考えてなかったな」 「みんな、いなくなっちゃうんだ、誰も私の事なんか」 「そうかな、今日だって、みんなちゃんと君の事を考えてしたことなんじゃないかな。それじゃなかったら、君のお父さんの会社にまで行って来るなんてことしないんじゃないかな?」 「・・・」 「怜ちゃんはお父さんとは何も関係なかった、それだけでも君にとってはいい事だっただろ、怜ちゃんの事とはまた別の事だ」 「でも、怜がいなくなる」 「そうだね、でも、まだ決まったわけじゃないだろ、その女がお母さんなのかもわからないんだもの」 うんと頷いているのがわかる。 「あの」「あのさ」 ドキン 目があった。 眩しい、天使が泣いてる。俺、このままチュウしたいです。 「先に言えよ」 「うん、あのさ、私が学校でるまで、いてくれないかな」 「そりゃ、こちらこそ、やっと二週間だぜ、オーナー、これからもお願いします」 「オーナー…何だ」 「そうだろ、俺の雇い主なんだからさ」 クスクスと笑いだした。 天使降臨! 「笑ってる方がいいや」 「うん」一歩前に出る彼女が俺の胸に顔をうずめた。ありがとうと聞こえた。 もう、ドッキ、ドキです、心臓おさまれ! 「さて、俺、トイレ行って来る、もう寝ろよ、宿題は終わったのか?」 抱きしめたい、でもダメ、彼女の後ろで手を組んだ。 「今からする」彼女が一歩下がった、手を離した。 「じゃあな」 「うん」 「ハア、俺我慢した、偉いよな」 でもな、彼女もいずれはいい男が出来れば結婚するだろうしな、俺なんかなー。あと二年か、まだ二週間だろうが、恩返しだろ、頑張れ俺。 冷蔵庫から冷えたビールを出した、こんだけあるんだ、一本ぐらいいいよな。んーうめー。 「こんばんは」 誰だこんな時間、時計はもう十一時を回っていた。玄関の明かりは消え、外の小さな明かりだけが付いている。 「はーい」 結構年の云った男性が玄関にいた。 「あの、こちらに、荻野麻美がおるはずなんですが?」 「はい、どちら様ですか」 「父親です」 「お父さん、どうぞ、今呼んできますのでおあがりになってお待ちください」 玄関を開け、応接室の明かりをつけ、二階に駆け上がった。 「麻美さん起きてますか?」 「なに?」 「お父様と言う方がおいでになってます」 「とおちゃん?」 バタバタと下に降りる。 「どうしたん」「すまんな、おっかあとけんかしてん」 「ハア?」「悪いが泊めてくれんか」 「ええけど、何で来たん」「ちょうど仕事で、明日こっちの人と会うんさ」 「管理人さん、かまわないよね」 「俺はいいけど」 「二階に行こう、部屋で話そう」「お世話になります」 「あ、そうだ、明日の朝、お願い」 「う、うん」二階に上がる二人を見ていた。 「どうしたの?」 千夏ちゃんが顔を出した。 麻美さんのお父さんが来た。 「結構あるんだ親御さんが来ることって」 「女だしな」 玄関へ行き、靴を麻美さんの下駄箱へ入れ、明かりを消した。 「ただ気を付けてね、弟とかお兄さんとか嘘ついてくる男もいるから、今みたいにかならず待ってもらってね」 「うん、でもそれって怖いな」 昔あったのだそうだ、警察を呼んでいち大事になって、結局、女性の方がここにいられなくなってでて行ってしまう。 「つらいな」 「でも今はヨッシーがいてくれるから」 「俺みたいのでもいい?」 「十分!」 笑ってくれた天使にホッとした。 「そっか、ありがと、寝るね、お休み」 「おやすみなさい」  俺の部屋にはまだ何もない、畳まれたシャツや下着それに今日着たスーツがハンガーにかかっている。そしてバカ高い靴が新聞紙の上に並んでいる。小さなテーブルの上には、貰いもののショルダーバッグと、エコバッグ、図書館で借りた料理の本がある。自由になる金もない。コーと小さな音を立てるエアコン、お金を取るというからもっぱら応接室を使うが、こんな時は仕方がないよな、ただ、なんて幸せなんだろうと思えるのは、怜ちゃんの寝顔をこうして見れるからなのだろうか。 「余裕なのかな」 ここであと一年半は使ってもらえるんだもんな。 スーツもワイシャツもネクタイも靴も、あの時身に着けていた物はすべて処分した。今、俺があの会社にはいって汗水たらして稼いだもので手元にあるのは、何もない。そう、親が出してくれた金で取ったこの免許書一枚だけ。あれ、でも、大型や、けん引は会社持ちか?まっいいか。 「ありがたいな」  親には絶対世話にならないと思って東京に出てきた。だから借金を作っても何も言えなかった。俺のじゃなかったし、好きになった女がばかだった、それを好きになった俺もバカだった。だから、神様は俺にしっかりしろってこの場を与えてくれるんだと思う。 単純に女の園だと思っていたら怖い、厳しい人たちばかり、ハーレムなんていいところじゃねえよな。 「こう考えられるのも、余裕だろうな、寝よ、明日も早いし」
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