氷雨

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氷雨

 傘を叩く氷雨の中、最終電車でこの駅に降りた。  昔の実家があった駅だが、もうすっかり風景が変わってしまっている。家族でよく行っていた寿司屋のビルもシャッターが下りたまま。商店街のネオンも消えている。そう言う実家も東京に引っ越してもう10年になる。それがどんな因縁か3か月前に人事部から出向になった。  それで少し時間はかかるが懐かしくなって実家の近くのマンションを借りた。それなのに毎日残業続きで実家の跡も商店街もまだまともに見ていない。  今日は体中が重く沈んだ気持ちだ。それで職場の銀行の近くで飲んだがまだ飲みたらない。同僚や上司とは飲むなと指示を受けている。それでいつも一人立飲み屋による。今回の仕事は半年を目途でと言われているが半分過ぎた。まだ先が全く見えない。  傘をさしたまま古いビルを見上げる。昔もあったような定かではない。ここも入口の店はシャッターが下りていて看板も薄れていて割れたところから黒ずんだ蛍光灯が見える。3階に唯一明かりが灯っている窓がある。その光に吸い寄せられるように傘を閉じてエレベターのボタンを押している。 「もう終わってるだろうな」 と繰り返すががたんと揺れながら上がっていく。  そう言えばここには昔古本屋があって高校の帰り道寄っていた。黒縁眼鏡をかけた年配の男性が箱のような台に一日中座っていた。エロ雑誌を見ているとはたきを持ってわざとらしくやってくる。 「帰るか」  エレベターから踏み出して足が止まる。廊下にスタンドが出ている。氷雨が窓ガラスに当たる音が廊下に響いている。 「明日は休もうか」
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